‘一角獣狩り 追い詰められた一角獣’(1495~1505年 クロイスターズ分館)
メトロポリタン美のクロイスターズ分館に所蔵されている連作タペスリー‘一角獣狩り’が掲載されている‘貴婦人と一角獣展’の図録を手に入れたことは大きな収穫だった。そのなかにとても気になる姿の一角獣がいる。キリスト受難の文脈で描かれた4点のひとつ‘追い詰められた一角獣’。
この場面は狩人と猟犬に追い詰められた一角獣が後足で最後の反撃をしているところ。一角獣が登場する絵をみることがきわめて少ないから一角獣の姿はとても新鮮。そのうえこの一角獣は生死の境にいるからおとなしくしてない。前足をぴんと伸ばし後足を高くあげできるかぎり強くみせようとしている。この姿がどうも気になる。
ある絵がすぐ頭をよぎった。それは歌川国芳(1797~1861)が描いた豪傑女と馬の絵。じつはこの絵は西洋の銅版画を下敷きにして制作されたものだった。1999年、神戸市立博物館の学芸員勝盛典子さんは江戸の旗本がもっていたフランス語版の‘イソップ物語’を調査しているとき挿絵のなかに国芳の浮世絵によく似たものがあることを発見した。
誰がみても国芳の絵が‘馬とライオン’を参考にして描いたものであることはわかる。そして、いま気になっているのはこの馬の姿。イソップ物語の挿絵を描いた画家はひょっとして‘一角獣狩り’で後ろ足をあげている一角獣をみたのではないかと。
馬が後足をあげることはよくあることだから、別に一角獣狩りのタペスリーを知らなくてもライオンに足蹴をくらわせる馬の姿は描ける。だから、まったく関係ないのかもしれない。隣の方は話は聞いてくれるが興味なしという顔つき。でも、これがイソップ物語というのがひっかかる。動物寓話集とか古い博物誌とつながっているのだろうか?
‘貴婦人と一角獣展’に遭遇したことで一角獣を含めた怪物や生き物たちが神話やキリスト教の世界でどういう姿形で描かれてきたのか知りたくなった。で、関連本を引っ張り出し動物情報の読み解きをはじめている。