タペスリー‘一角獣狩り 囚われの一角獣’(1495~1505年)
海外にある美術館をめぐる旅はこれまで大半がヨーロッパだったが、今心はぐぐっとアメリカにむかっている。1月ニューヨークで久しぶりにMoMAやグッゲンハイムを訪れ、近代絵画や現代アート作品を楽しんだ。これで心のなかにあるNY熱に一気に火がついた。そうすると、ふしぎなものでNYのアートシーンに関する情報がいろいろ入ってくるようになった。
4月末にはBS朝日で木梨憲武がMoMAを訪問したり画廊めぐりをするじつにタイムリーな番組に遭遇したし、昨日はその続編があり興味深いパブリックアートがいくつもでてきた。刺激的なオブジェを目にすると、自由の女神がNYへまたおいで!と微笑んでいるように思えてきた。
そして、もうひとつNYへ駆り立てるものがある。それはメトロポリタン美の分館、クロイスターズにあるタペスリー‘一角獣狩り’。これは27日に国立新美ですばらしいタペスリー‘貴婦人と一角獣’をみたことが大きく影響している。このフランスの至宝をみたことで、以前から存在は知っていたクロイスターズにある‘一角獣狩り’が俄然頭をもたげてきた。脳が文化記号の響き合いを強く感じているのである。
‘貴婦人と一角獣展’(7/15まで)は今、知人、友人に大いに宣伝している。この展覧会の収穫はもうひとつ、作品を収録した図録。とてもいい編集で情報量が多く読みやすい。有難いことにクロイスターズ蔵の‘一角獣狩り’の7点が全部掲載されている。これまでMETの図録でみたのは2点のみ。この図録のお蔭で連作タペスリーの全貌がわかった。
わかりやすい解説によると、一角獣狩りというテーマは宮廷的恋愛、受胎告知、キリスト受難という3つの文脈で解釈され、7点はそれにもとづいて描かれている。最初にでてくる‘狩りの始まり’と‘囚われの一角獣’は宮廷的恋愛を表現している。日曜美術館でも名大の先生がこの恋愛の話にふれていたが、一角獣は男性の恋人で一角獣を捕らえるための乙女は男性の求める女性。狩人は男性を虜にする愛を意味する。
気を惹くのが‘神秘の一角獣狩り’、これは受胎告知に見立てられている。乙女が聖母マリア、一角獣はマリアの母体に宿るキリスト、そして左で角笛を吹く狩人が大天使ガブリエル。これまで受胎告知を数多くみてきたが、ガブリエルが男性に代わったものはみたことがない。
残る4点は一角獣がキリストでこの場面がキリスト受難を表していることはすぐ理解できる。‘一角獣の発見’、‘流れから飛び出す一角獣’、‘追い詰められた一角獣’、‘殺され、城へ運ばれる一角獣’。本物の前では夢中になってみてしまいそう。その機会が早く訪れることを願ってミューズに祈りをささげることにした。