喜多川歌麿の‘北国五色墨 おいらん’(1794~95年 シカゴ美)
喜多川歌麿の‘青楼十二時 続 戌の刻’(1794年頃 たばこと塩の博物館)
鳥文斎栄之の‘青楼美人六花仙 松葉や若那’(1794年頃 大英博)
北尾正演の‘吉原傾城新美人合自筆鑑’(1784年 千葉市美)
NHKの大河ドラマ‘べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~’には蔦重が妓楼へ貸本をも
ってくる場面がよくでてくる。花魁から見習いの禿までそれぞれ好きな本
を熱心に読んでいる。吉原に来る前は皆読み書きを習い識字率が高いから、
読書タイムが当たり前になっているのがすごいなと思う。浮世絵にも、遊
女が馴染み客へ吉原通いを催促する文(手紙)をしたためたり、旦那から
きた手紙を読んでいるところを描いたものが多くある。
肉筆美人画では一番の人気を誇った勝川春章(1743~1792)の‘文読む遊女図’は美形の遊女が愛しい客から届いた長い手紙を目に力をこめて読んでいる。こういう描写はドラマ性が感じられ、つい余計な感情移入をしてしまう。喜多川歌麿(1753~1806)は仕事の合間にせっせと来店を依頼する手紙を書いている場面をくだけた感じで描いている。
‘北国五色墨 おいらん’は美女に変身する前のすっぴん姿でしっかり売り込み作戦に励んでいる。今ならやり手の営業部長に来店を促すメールを送るのと同じ攻めのプッシュ活動。‘青楼十二時 続 戌の刻’では筆をとめてそばにいる禿に何かしゃべっている。‘今、日本橋の旦那に遊びに来てよ書いているところだからネ、あとでもっていっておくれ、お前さんあの旦那知っているだろう、ちょっと顔の赤い人だよ’と話しかけているのだろうか。
鳥文斎栄之(1756~1829)の‘青楼美人六歌仙 松葉や若那’は遊女が書物を手にして音読している。一流の花魁ともなると教養もあってサロンの主のような存在だった。洗練された女性なのである。北尾政演(山東京伝 1761~1816)の‘吉原傾城新美人合自筆鏡’には狂歌が好きな遊女が登場する。大文字屋市兵衛が狂歌愛好家で吉原連の総帥として活躍していたから、絵の上に遊女の詠んだ狂歌が描かれている。