‘ジスモンダ(左)’(1895年)と‘メディァ(右)’(1898年)
‘ジスモンダ’のポスターの前に座っているミュシャ 1898年頃
女優サラ・ベルナール
棺桶で眠るベルナール ‘聖なる怪物’と呼ばれた
サラ・ベルナール劇場(現パリ市立劇場)
19世紀末、産業革命がもたらす経済の発展で活気に満ち溢れていたパリで
庶民から上流階級まで多くの人の心をとらえたのが演劇の世界。そこでベル
エポックの象徴として絶大な人気を誇ったのが女優サラ・ベルナール
(1844~1923)。ミュシャ(1860~1939)は挿絵の腕を認
められ彼女から依頼されたのが‘ジスモンダ’の舞台ポスター。34歳のミュシ
ャはこのポスターで一躍脚光を浴び、サラと6年間の契約を結び‘メディァ’な
ど多くのポスターを手掛けことになる。
時代の寵児となったミュシャはポスターだけでなく、当時ヨーロッパ中で流
行したアールヌーヴォーの様式の彫刻から煙草など商品の広告、インテリア、
アクセサリーのデザインまでてがけ、‘デザインの神様’とうたわれるほどの存
在になっていく。そのデザインの主役が美しすぎる女性たち。出世作の‘ジス
モンダ’からはじまりパリを離れるまで一貫してみんながうっとりするような
乙女たちが描かれていく。
ミュシャの才能を大きき花開かせたサラもとても綺麗だが、自己演出の天才
だった。たとえば、棺桶で眠ったりして‘聖なる怪物’と呼ばれた。自分が世界
一の女優だとわかっており、暮らしもそれに相応しい現実離れした夢のよう
なものにした。そういう彼女の心をミュシャはしっかりくみとり、どの役で
も頭のまわりを丸く囲い神々しく描いている。草花をモチーフに過剰とも思
える装飾をほどこして夢のような美しさをつくりだした。
府中市美で明日まで行われている‘ミュシャ展’をみて、いつもながら淡い色調
で描かれたふっくらと綺麗な顔立ちの女性たちは心を和ませてくれ、周りを
囲む意匠化された草花や流麗な線によって惹きたてられているなと感じた。
ミュシャに乾杯!