広島で仕事をしていた頃、岡山の備前には2度クルマを走らせ窯元を外から
ながめていた。備前焼に魅せられるのは茶褐色の地肌が素朴でなにか力強い
感じがすること。釉薬を使わないので見どころは窯のなかでおこる窯変の景
色。とくに惹かれるのは藁が燃えてできる赤褐色の筋模様、緋襷(ひだすき)。
これまで運がいいことに大きな備前焼展に2回遭遇した。お陰で古備前およ
び近代の陶芸家の作品を数多く楽しむことができた。昭和時代の初期、桃山
の美をよみがえらせ衰退していた備前焼を復興させたのが金重陶陽(1896
~1967)。東近美にある‘耳付水指’など傑作にであったが、まだまだ数が
少ない。いつかお目にかかりたいと思っているのは圧倒的な存在感で迫って
くる‘備前大破釜’やどっしりとして風格のある‘備前手鉢’。
金重陶陽と同じく備前焼の人間国宝(5人)に指定されている山本陶秀
(1906~1994)は神業に近い轆轤技術を駆使して名品を生み出した。
まだ縁がないのが‘備前緋襷花入’。丸い花入の形は完璧に目に心地よく、自然
にできた濃い朱色の緋襷に視線が釘付けになる。こういう美しさを感じさせる
緋襷はそうはない。
5人目の人間国宝となったのが伊勢崎淳(1936~)。この陶芸家は池田満寿夫、ミロ、イサム・ノグチらと交流し現代美術にも通じており、創作のスタイルに前衛的なセンスがうかがえる。いつか回顧展に遭遇するのを願っているが、そのとき抽象絵画を連想させる表現が気を惹く‘備前長方皿’や風の流れを強く感じさせる前衛彫刻のような‘風雪’がみれれば最高なのだが。