イタリアのアッシジは2006年、2010年と2度訪問した。お目当ては
聖フランチェスコ大聖堂の壁や天井にジョット(1267~1337)によ
って描かれた‘聖フランチェスコの生涯’。長年の夢だったこの有名なフレスコ
画をみたあと、すぐ次の目標が決まった。それはヴェネツィアからそう遠く
ないところにあるパドヴァのアレーナ礼拝堂。ここにもみたくてたまらない
ジョットの壁画がある。描かれているのはキリストの生涯と受難の場面。
ルネサンス絵画にのめり込んでいた頃、朝日新聞の日曜版に掲載された
‘世界名画の旅’を集めた本を4,5冊購入した。そこで取り上げられたジョッ
トの絵がアレーナ礼拝堂の壁画の一枚‘東方三博士の礼拝’の話だった。この絵
とからめて取材されたのが西独にある欧州宇宙機関がハレー彗星をとらえる
ため打ち上げた探査機‘ジョット’。探査機にジョットの名前がついているのは
‘東方三博士の礼拝’の中にハレー彗星が描かれているから(上部)。この本を
読んだ1986年からジョットに関心をもつようになった。
ジョットの画集、たとえばTASCHEN本(日本語版 2008年)にでている
キリスト物語の表現にとても惹きつけられるのがいくつかある。その一枚が
‘裏切られたキリスト’、大きな黄色のマントにつつまれた裏切り者、ユダをじ
っとみつめるキリストの姿がじつに印象的。このユダの顔をみるたびに思い
出すのがショーン・コネリーが主演した‘薔薇の名前’にでてくる猿のような男
サルヴァトーレ。顔がそっくり、監督はジョットの絵をみたのかもしれない。
もう一枚、心にぐっとくる感情表現がみられるのが‘キリストの哀悼’。上で飛
んでいる天使たちは悲しみに体をよじり、両手で顔をおおってすすり泣き、
嘆き悲しんでいる。天使がこんなリアルな悲しみの表情をみせる絵はほかに
みたことがない。以前日曜美術館に出演した画家の絹谷幸二さんがジョットの
この壁画のすばらしさを熱く語っていた。なんとしてもみたい!