絵画とのつきあいは月に一回とか二回美術館にでかけて本物の絵をみるとい
う点的な体験だけで楽しみが得られているわけではない。家で過去に手に入
れた特別展の図録や一般に売られれている美術書籍をみているときも同じよ
うに心はいい気分になる。だから、展覧会に出かける回数が少なくなった昨
今は毎日図版によって画家と深くつながっており、その図録がとくに感動の
大きかった展覧会のものだと画家への思い入れがより強くなっていく。
2008年、シカゴ美を訪問したとき思いもよらなかった幸運が待っていた。
なんと、ここであのホッパー(1882~1967)の大回顧展が開催され
ていた!シカゴ美で誰もがみたい絵というとスーラの‘グランド・ジャット島
の日曜日の午後’(1884~86年)とポッパーの‘夜更かしをする人たち’
(1942年)。この2点をみるのが長年の夢だったのに、さらにポッパー
が丸ごと楽しめるとは。夢のような巡りあわせだった。この特別展はまず
ボストン美で2007年5月にはじまり、次がワシントンナショナルギャラ
リー、そして最後が代表作があるシカゴ美。
ミュージアムショップで完璧に近いラインナップで主要な作品がどどっと載
っている大きな図版を購入したが、残念なことに展示替えでシカゴにはやっ
て来なかったものがあった。そのなかでこれもみたかったと強く思ったのは
‘サマータイム’、‘西部のモーテル’、‘海を見る人々’、‘二階の日ざし’。‘夏の
夕暮’はこの回顧展には出品されず、参考図版で登場。
ポッパーが描く人物は一人ないし二人が多い。‘サマータイム’と‘二階の日ざし’
は光の描写が印象深いため、人物の内面まで踏み込めないところがあるが、
‘西部のモーテル’はホッパーのイメージとなっている孤独感が色濃くでている。
そして、若いカップルが描かれた‘夏の夕暮’と中年の男女が静かに並んでいる
‘海を見る人々’はどこかドガの作品‘アプサント’の雰囲気を彷彿とさせる。豊か
だけどなにか淋しくく空虚な世界がここにはある。