デパートのなかにある美術館とか画廊を使って開かれる個展に偶然遭遇して、
作家の名前を覚えることがときどきある。熊本市出身の瀧下和之(1975~)
の作品にであったのは渋谷西武の美術画廊。2008年のことだから、瀧下
が33歳のころ。プロフィルをみると東芸大で日本画家のビッグネーム中島
千波に学んでいる。画風はすぐわかる通り漫画チックなので、お馴染みの
画題でも楽しいからついじっくりみてしまう。
部屋に飾りたくなるのがどことなく愛嬌のある‘風神雷神図屏風‘。ペタッと
した子どもでも描けそうな感じだが、風神雷神の丸っこいフォルムと鮮やか
な赤や青により強い風や爆発的な雷を十分印象づけている。‘龍虎図’はあま
りみられない構図が目を惹く。虎を真正面からとらえ、龍はその虎の線を真
横に切るように長い胴をくねらせている。これからいざ決戦という緊迫感は
感じられない。
‘桃太郎 鬼ヶ島で鬼退治’は変わった描き方がされている。二つの屏風は右手
で描かれているが、‘桃太郎’シリーズはすべて左手で描いている。筆運びの
ぎこちなさが良いと思い、それを9年も続けている。おもしろい発想をする
画家である。たしかに‘鬼退治’はギザギザした筆の流れになっているが、逆に
それが鬼のキャラクターを表現するのはもってこいになっている。
ミヤケマイさんはとてもユニークな女性美術家。日本の伝統的な美術や工芸
などを独自の新鮮なアイデアで表現している。2回個展をみたが、Bunkamura
のギャラリーで2011年にお目にかかった作品は今も目に焼きついている。
‘お出かけ’は思わず笑ってしまった。右で蛙がパスポートを手にもっている。
ええー、蛙がこれから海外旅行に出かけるの!? ‘秘密’は構図にハッとする。
横長の画面の中央に女の一部欠けた顔が横向きで描かれている。そこにダリ
の絵のように2匹の蜂が飛んでいる。そして、顔を結んで三角形をつくるよう
に下の左右に美しいピンクのバラを配置している。タイトルはシュルレアリス
ム流を意識したのかもしれない。