独自のコンセプトで写真の常識をうち破り国内外で高く評価されている
杉本博司(1948~)と出会ったのは2003年に開館した森美の記念展。
‘北太平洋、大黒崎’の前でこれは絵画なのか写真なのか戸惑った。どうやら
写真らしい。水平線が画面を海と空で等分にわけており、雲も白波もない
静寂な海景が広がっている。静かすぎる海の絵ならスーラの点描法のよる作
品があるが、この写真では海は絵画よりもっと深い静けさにつつまれている。
印象に強く残る写真だった。
杉本博司との2度目の遭遇は2015年、千葉市美で行われた回顧展。これ
で作品の全体がおおよそつかめた。1980年からはじまった‘海景’シリーズ
もあり、どのヴァリエーションもモノトーンで音がまったくない世界。大き
な収穫は‘ジオラマ’シリーズ。1976年に制作された‘ハイエナ・ジャッカ
ル・ハゲタカ’は一見するとTVなどでお馴染みのアフリカの大地にみえる。
ハイエナ、ジャッカル、ハゲタカがいるから、てっきり死んだ動物の肉に皆で
食らいついているのだろうと思った。
ところが、騙された。これは自然史博物館などにあるジオラマを撮影したもの
。どうみたってこの光景は本物の自然そのもの。では、実際に動物写真家が
アフリカにでかけて同じようにハイエナなど集結する場面を撮ったものと較べ
て、この作品はどう違ってくるのか。ジオラマではアフリカに生きる鳥や動物
たちの剥製を使ってその生態が瞬間的につかめるような演出されている。
そのため、見世物としては申し分なく臨場感満載となってる分テンションはあ
がる。欺かれたお陰でより楽しんだかもしれない。‘オリンピック雨林’も鹿の
存在感がとても感じられる。
林忠彦(1918~1990)は作家や芸術家の人物写真で有名な写真家とい
うことはインプットされていた。その数400人以上というからスゴイ。
モデルとは決闘するような感じでシャッターを切り続けたので‘決闘写真’と呼ば
れている。お気に入りは‘川端康成’。ほかには谷崎潤一郎や太宰治、坂口安吾な
どもあるが、この川端康成が群を抜いていい。戦後の東京を撮ったものでは
‘配給を受ける長い行列 銀座’をつい長くみてしまう。銀座4丁目のまわりは
こんな風だったのか。