絵画や陶芸の展覧会にはもう何年も足しげく通っているが、写真展にはこれ
まで縁が薄かった。そのため、知っている写真家は土門拳、林忠彦、篠山紀
信、、など片手くらいしかいない。世の中には写真が好きで高額なカメラで
風景などをシャッターにおさめる人は大勢いるので、こういアマチュアの
写真展をみるのも一興かなと思うこともある。しかし、プロの写真家となる
と入館料がかかるため動きは鈍くなる。ところが、演出写真で高い人気を誇
る‘植田正治’(1913~2000)は例外で2013年東京ステーション
ギャラリーで開催された‘生誕100年! 植田正治のつくりかた’には関心があ
り、期待をこめて出かけた。
果たして、刺激がいっぱいあり楽しい写真展だった。はじめてみた代表作の
‘パパとママとコドモたち’にはびっくりした。写真というとスナップショット
による人物のリアリズムな表現というイメージができているので、こういう
幸せそうにみえる家族が演出によって横に並んでいる場面は大変新鮮に映る。
日本画では小倉遊亀が描いた母親と女の子と犬の絵がすぐ頭に浮かぶ。そし
て、‘小狐登場’も物語性がたっぷり感じられる。同じく砂丘で男の子が狐の面
を被って跳び上がっている。まるで歌舞伎の舞台をみているよう。
‘「砂丘モード」より’をみたとき強い衝撃が走った。タキシードを着たイケメ
ンの男性モデルが大勢出現し、空が赤く染まった砂丘に様々なポーズで立っ
ている。瞬間的にこれはシュルレアリストのマグリットの写真バージョンで
はないか!と思った。植田正治がシュールな表現に感化されていたとは。も
うひとつの作品はモデルは帽子を逆さにして左手でもっている。そして、遠
くにもう一人立たせ、その姿が帽子の上に乗っているようにみせている。
これはおもしろい!
1990年代に制作された‘「花視る」より’は画面いっぱいに花を描いたオキ
ーフの絵を彷彿とさせる。写真によって花のもっている生命力や美しさを
抽象絵画感覚でこれほどシャープに表現できるというのがスゴイ。マグリッ
トにもオキーフにも想起がおよぶとはまったく想定外。いっぺんに植田正治
のファンになった。広島で仕事をしているとき出張で植田の故郷である鳥取
県の境港市には行ったことがある。もっと早くこの写真家の存在を知ってお
ればよかった。