富岡鉄斎の‘阿倍仲麻呂明州望月図’(1914年 辰馬考古資料館)
会期が残り3日となった東近美の‘重要文化財の秘密’展(3/17~5/14)
は予想を大きく上回る人たちが押し寄せていた。そのため、入館に30分く
らいかかった。近代日本美術に愛着を覚える美術ファンはこんなビッグな特
別展はこの先30年くらいはないと思っているのだろう。今回出品されて
いる51の重文のうち狩野芳崖の‘悲母観音’は展示のタイミングが合わず見
逃したが、お目当ての富岡鉄斎(1836~1924)がみれたので2度も
足を運んだ甲斐があった。
鉄斎が‘阿倍仲麻呂明州望月図’(右隻)と‘円通大師呉門隠栖図’(左隻)とい
う六曲一双の屏風を描いたことはこの特別展があるまでまったく知らなかっ
た。過去に3回富岡鉄斎展を体験し主要作品はだいぶみたという印象をもっ
ていたが、1969年に重文に指定された絵があったとは。これは他館には
ほとんど貸し出されていなかったのではなかろうか。賛に書かれた仲麻呂の
和歌、‘天の原ふりさけ看れば春日なる三笠の山に出でし月かも’が昔、家族で
一緒に楽しんだ百人一首の記憶を思い出させてくれた。
最初に飾ってある春草の‘黒き猫’は琳派のたらしこみが使われた柏の木の幹と
黒猫のふわったとした毛の取り合わせに神秘的な情趣を感じる。そして、黒
の強さを地のうす黄色と上に描かれた葉っぱによって中和させる色彩センス
に感心させられる。好みとしては竹内栖鳳の‘斑猫’より気楽にみれるこの
黒猫のほう。
洋画は久しぶりの対面となった岸田劉生(1891~1929)の‘麗子微笑’、
黒田清輝(1866~1924)の‘湖畔’を長くみていた。これぞ目に馴染ん
だTHE洋画! 和田三造(1883~1967)の‘南風’は東近美の平常展
をまわるとき、1階では原田直次郎の‘騎龍観音’とともに思わず足が止まる絵。
2018年、重文に指定されたのを知り心のなかで‘良かった!’とつぶやいた。
圧倒的な存在感が目に焼き付いているのが中央に立つ筋肉隆々の男。見事な
海景画である。