近代日本画をたくさんみたなかで一生付き合っていこうと心に決めた画家が
6人いる。横山大観、菱田春草、上村松園、鏑木清方、東山魁夷、加山又造。
このうち二人は美人画家として多くの人に愛されている、西の上村松園
(1875~1949)と東の鏑木清方(1878~1972)。最高の
女流画家として高い人気を誇る松園の美人画をこれまで数多くみてきたが、
驚かされるのがこれは平均的だなという感じのする作品がなく世に出たもの
はほとんどが高い完成度で描かれていること。TVの美術番組で松園物語が語
られるとき、松園は線がすこしでも乱れるとすぐボツにしてまたはじめから
描きなおしたという話がよくでてくる。だから、完成された作品は女性でし
か描けない理想の女性美が完璧に表現されているというイメージが強く心に
刻まれる。
10数年前、東芸大美の所蔵名品展に巡り合い、運良く一緒に飾られた‘序の舞’と‘草紙洗小町‘をみることができた。このときが松園で‘最高の瞬間’!だった。ともに女性の美しさだけでなく品格が感じられる傑作である。‘序の舞’で目が点になったのが能を舞う女性のきりっとしまった手の指の描写と大振袖にみられる淡い色調の彩雲模様が赤に変わっていくところ。この華麗で繊細な描き方は本当にスゴイ。予想外だったのが‘草紙洗小町’の大きさ。疑いを晴らした小町の内面を表現するのにふさわしいサイズに即納得した。また、足立美にある構図の取り方がすばらしい‘牡丹雪’も忘れられない。
絵画の鑑賞が楽しくて仕方がなかったころ、頻繁に出かけていた東博の平常展に松園の‘焔’が登場した。プレートに松園の名をみつけたときは仰天した。ええー、あの松園がこんな激しい表情をみせる女性を描いたの?!描かれているのは源氏物語にでてくる六条御息所の生霊。嫉妬に狂う女が髪の端を噛んでこちらに振り返っている。いくら美形の女でもこれほど怨念をつのらせ幽霊のような姿に変容すると、怖くてとても近寄れない。
松園にはもうひとつはっとさせる絵がある。‘楚蓮香’。これは個人が所蔵するものだが、京近美と横浜美にある別ヴァージョンよりは格段にいい。楚蓮香はこの美人の名前で良い香を放ち、外に出るとその香りに誘われて蝶がつきまとったとされる。見た瞬間、その卵型の顔からフィギュアスケートの人気者浅田真央ちゃんを連想した。