作品をみて感動する絵描きなら鑑賞の範囲はどんどん広がっていくが、それ
にかける時間やエネルギーは限られている。となると、なにか参考になる情
報が欲しい。明治以降に活躍した日本画家については、1989年にあった
‘昭和の日本画100選展’の図録がわが家のバイブル。ここに72人の作品
が掲載されている。横山大観(1869~1958)と親交のあった冨田渓仙
(1879~1936)と小杉放菴(1881~1964)は‘御室の桜’と
‘山中秋意’が選ばれている。
傑作が揃った大展覧会だったが、図録には載っているが出品されなかったも
のや展示替えなどのためお目にかからないものがあった。そのため、そうし
た作品の追っかけがそれ以降はじまった。渓仙の‘御室の桜’は実際にみるのに
長い年月を要し、2009年茨城県近美で開催された回顧展でようやく思
いの丈が叶えられた。御室とは京都の仁和寺の別称で、渓仙は樹高が高くな
らず地面に近いところに花をつけるのが特徴の桜を琳派風の装飾的な表現で
見事に描いている。そして、東近美にある風俗画‘紙漉き’と水車と淀城を大胆
にコラボさせた幻想的な‘淀城’も大変気に入っている。
出光美のコレクションは絵画では仙厓と小杉放菴、やきものでは板谷波山が
有名。放菴は栃木県日光山内に神官の子として生まれ、はじめは西洋画を描いた
が、途中から日本画に転じた。これまで小杉放菴記念日光美にまで遠征した
り、出光で2度回顧展を体験したので主要な絵はだいたい目のなかに入った。
花鳥画では目にとびこんでくる赤と構図の良さが印象深い‘山中秋意’にもっと
も惹かれる。
人物描写でインパクトがあるのが‘天のうづめの命’。天の岩戸に身を隠した
天照大御神を誘い出そうと、おもしろい舞を披露する天のうづめの命。モデ
ルはブギの女王・笠屋(かさぎ)シズ子(知ってる人は知っている)。鉞
(まさかり)をもち屈託のない笑顔をみせる金太郎を描いた‘金時遊行’も大好きな絵。いつも元気をもらう。