美術館へ頻繁に出かけるようになると、画家の作品をたくさん集めた回顧展
にどのくらい遭遇するかに関心がむかい勝手にMy画家展を夢見てしまう。
それが実現されれば大団円となるが、思い入れが強く前のめりになっても一
向に動きがない画家も多くいる。河合玉堂(1873~1957)は順調に
思いの丈が叶えられた画家のひとり。
玉堂で‘最高の瞬間’!はやはり東近美が所蔵する‘行く春’。平常展によく通っ
ていた頃は、毎年花見の時分になるとこの傑作をみるのが大きな楽しみだっ
た。日本画の魅力を存分にみせてくれる大傑作で、玉堂というのは本当に
すごい画家だなと思う。現在、東近美で開かれている‘重要文化財の秘密’で久
しぶりにお目にかかり幸せな気分になった。
熱海のMOAでみた‘春色駘蕩’も一生忘れならない。駘蕩(たいとう)は春の
景色ののどかなようすのこと。その名の通りに感じさせるのは色彩の美しさ。
さわやかな緑、ピンクが心をとらえて離さない。MOAには日本画のすばら
しい作品がいくつもあるが、これはこれまで3回くらい体験した河合玉堂展
には一度も出品されたことがない。残念だが、美術館のポリシーだから仕方が
ない。山種にある‘渓山秋趣’は師事した橋本雅邦の影響がみられるが、縦長の
画面に険しい山々やボリューム感のある断崖をアップでとらえるのは玉堂流。
‘宿雪’はとても緊張する作品。ぼやっとしていると断崖の下に落ちそうになる
位置からこの光景がとらえられている。こういう構図の取り方はすぐには思い
つかないから、山のなかをどん欲に回る必要がある。絵描きには体力もいる
から大変。腕が達者でも、はっとする自然を実際に体験しないとこうした
傑作は生まれてこない。白黒のきりっとしたコントラストがじつに巧みで背筋
がしゃんとする感じ。水面のかがり火の反射するところが幻想的な‘鵜飼’も
傑作。玉堂が得意とした画題が鵜飼、何点もお目にかかったがでこれがベスト
ワン。