‘犬神家の一族’(後編 2023年4月29日 BSプレミアム放送より)
先週の29日(土)夜、BSプレミアムで放送されたNHK版‘犬神家の一族’
(後編)の最後の終わり方を今ずっと引きずっている。NHKが犬神家の
一族’を新たにつくったことを知ったのは先月の中頃。あとから考えると、
4/15に吉岡秀隆が金田一耕助を演じた‘八つ墓村’(NHK製作2019年)
を再放送していたのはこの映画を盛り上げるためだった。そして、前編、
後編(ともに1時間半)でトータル3時間の新作‘犬神家の一族’の登場である。
後編も石坂浩二主演の角川映画版(1976年)とそう違わないつくりかた
で結末になってきた。ところが、ラスト10分前で金田一耕助が難しい顔つ
きに変わり、急遽、佐清(すけきよ)が収監されている刑務所に出かける。
金田一は何のために佐清に会うのか? 原作でも映画でも佐清はいい人間とな
っている。ところが、吉岡金田一は佐清は本当は母親の松子同様、相当な悪党
であることを見抜き、こう言う。‘母親の犯罪をみすごし、静馬(しずま)のな
りすましを咎めなかった。これは善意か?それとも悪意ですか?‘。黙っている
佐清にむかってぐさっと切り込む。‘帰還し現状を知ったあなたは悪魔の計画を
思いついた。二人を操り、邪魔者を消させもっとも効果的な場面で正体を現わ
す。犬神家のすべてを得るために君は二人の愛につけこんだ‘。それに対し口を
開いた佐清は‘金田一さん、あなた病気です’と言って立ち去る。
佐清役の金子大地という俳優は知らなかったが、殺人鬼のような表情になった
最後の演技を見せるために監督はこの俳優を起用したのかなと思った。この悪
役佐清説はぞくっとさせる新解釈。表の顔としては母親をかばうため良くでき
た息子を演じ、腹の底では莫大な犬神家の財産を手に入れようと悪知恵を働か
せ冷徹に実行する。たしかにこの10分だけを切り取れば、これもありかなと
思うが、この場面にくるまでの佐清の言動との落差がありすぎるのがひっかか
る。脚本家は‘びっくりした?佐清には母親の血が流れているのよ!’とにやっと
しているかもしれない。