葛飾応為の‘吉原格子先之図’(1844~54年 太田記念美)
浮世絵をみててちょっと驚くことがある。それは西洋画の遠近法を使って画
面構成された絵(浮絵という)があること。これを創始した奥村政信
(1686~1764)の‘市村座内部図’は芝居場内の様子がよくわかり、
観客の一人になって演じられる芝居をみている気分になる。熱海のMOAで
浮絵をみたときの楽しさが忘れられない。
太田記念美に何度も足を運ぶと‘小さな発見、大きな喜び’的な体験をすること
がある。石川豊信(1711~1785)の‘二代目瀬川吉次の石橋’の前では
思わず足がとまり頬が緩んだ。ポチャッとした丸顔で色白とくれば、見惚れ
てしまう。この絵でいっぺんに豊信のファンになった。だから、My浮世絵
傑作選図録には数点載せている。
そして、鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし 1756~1829)の美人
大首絵にもとりつかれてしまった。歌麿のようでもあり、清長のようでもある
からすっと入っていける。東博などでみる絵は立ち姿の美人が複数登場するも
のが多いが、大首絵は海外の美術館がもっている浮世絵コレクションが里帰り
したときによくお目にかかる。ええー、こんなにアップで描かれたものが栄之
にあったの? こういうサプライスが重なるにつれて、栄之の評価がぐんぐ
ん上がっていった。
ポスト写楽の印象が強い役者絵が歌川国政(1773~1810)の描いた
‘六代目市川団十郎’。横向きの構図だが、写楽を彷彿とさせる表現がぐっとく
る。北斎の娘、お栄、葛飾応為(かつしかおうい 生没年不詳)の‘吉原格子
先之図’に魅了され続けている。この光と陰影の表現をみるたびに応為は‘日本
のラ・トゥール’と思ってしまう。