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Channel: いづつやの文化記号
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美術で‘最高の瞬間’! 目に焼きつくスーパー感情表現

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Img_20221025224101   ティツィアーノの‘ブラーヴォ’(1529年 ウィーン美術史美)

Img_0001_20221025224201   カラヴァッジョの‘キリストの笞打ち’(1607年 カポデイモンテ美)

Img_0002_20221025224201   レンブラントの‘ベルシャザルの酒宴’(1635年 ナショナルギャラリー)

Img_0005_20221025224201   ラ・トゥールの‘楽士たちのいさかい’(1625~30年 ポールゲッテイ美)

Img_0003_20221025224201   クールベの‘自画像(絶望した男)’(1843~45年)

昨年からわが家では映画のDVDを観る時間が多くなっている。世の中に
数多くいる‘三度の飯より映画が好き!’という映画狂の人たちほどはのめ
り込んでいないが、小さい頃から映画の楽しみは十分にわかっているので
かつてみて感動したもの、まだみてないが気になるタイトルのついた、
たとえば、‘郵便配達は二度ベルを鳴らす’といった映画はせっせと買い集
めている。映画は物語のおもしろさ、映像美、それを強く印象づけるの欠か
せない琴線を揺らす音楽といったものが総合的にはたらくことによって生む出
される総合芸術。だから、優秀な映画監督は美術や音楽に豊かな感性をもち
あわせている。

古い時代の絵描きでも近代に活躍した画家でも、その作品のなかには映画
監督がすぐとびつきそうなほど人物の感情をリアルに表現したものがある。
ヴェネツィア派のティツィアーノ(1488~1576)には雇われた刺客
(ブラーヴォ)を描いたものがある。刺客に襟をつかまれた男の恐怖に満ち
た眼差しが目に焼きついている。これはまさに映画のワンカット。宗教画を
描く一方でこんな映画を思わせる絵を仕上げるのだから、ティツィアーノ、
恐るべしである。これよりもっと凄みがあり暴力性の強いのがカラヴァッ
ジョ(1571~1610)の‘キリストの笞打ち’。左にいる刑吏は残虐性
丸出しでキリストをいたぶっている。

レンブラント(1606~1669)の‘ベルシャザルの酒宴’で視線が向かう
のは中央のバビロニアの王ベルシャザルよりはその後ろにいる取り巻きの女
の顔。その目は‘あらー、王様が動転しまくっている。王の死を予言され
たのだから無理もないわね’といっているよう。この感情表現をみるたびにレ
ンブラントという画家はすぐにでも映画のメガホンをもてると思ってしまう。

ラ・トゥール(1593~1652)の‘楽士たちのいさかい’は左端で喧嘩に巻き込まれた夫の無事を祈ってわなわな震えている妻の姿が忘れられない。正面をむかせて描くことで、ラ・トゥールはちょっとしたいさかいであっても平和を好む女性は恐怖のどん底に落とされることを強調している。この妻の目の奥に秘められた感情の激しい高まりと同じようなものはクールベ(1819~1877)の‘自画像(絶望した男)’にも感じられる。2008年、パリのグラン・パレで開催された‘クールベ展’でこの絵に出会ったときは立ち尽くしてみていた。


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