マザウェルの‘スぺイン共和国へのエレジー 108’(1967年 MoMA)
スーラ―ジュの‘ポリプティックC’(1985年 ポンピドーセンター )
ラインハートの‘抽象絵画No.5’(1962年 テートモダン)
抽象絵画にしか関心がないという美術ファンでも黒だけの画面をみているの
は精神的にはきついかもしれない。ア―ティストが黒の表現にどんな感情を
こめているのかを読み解くのはとても難しい。黒というと敗北とか絶望的と
いったことをイメージするにしても目の前の作品にそれをかぶせるのも安易
すぎる。メトロポリタン美で遭遇したスティル(1904~1980)の
‘無題’は大きな絵でポロックの‘秋のリズム’の横に飾ってあった。この黒で表
現されたものが何にみえるか、怒りを爆発させた男が乱れた髪を揺らして
こちらを睨んでいる。一瞬そんなことを思った。
抽象的な作品にはちゃんとしたタイトルがついたものもある。マザウェル
(1915~1991)の‘スペイン共和国へのエレジー’はそのひとつ。スペイ
ンの市民戦争に触発されて描かれたが、政治的な意図はない。タイトルから
すると共和国派が左に向かって突進する場面を連想したりもするが、黒がつ
くるフォルムは巨大な謎の怪鳥が空を飛んでいるようにもみえる。さらに勝
手にイメージをふくらますと居酒屋で注文する焼き鳥の形にも似ている。
フランスのスーラージュ(1919~)の‘絵画、324×362㎝、ポリプティッ
クC’を東京都現美で開催された‘ポンピドーコレクション展’でみたときは強
い衝撃を受けた。びっくりするような大きな画面は重ね合された4枚の黒
のパネルでできていて、段状に並んだ縞ができている。思索的な感じがして
緊張してながめていた。スーラ―ジュは今年103歳。同じアンフォルメル
の作家として活躍した堂本尚郎(1928~2013)が2005年に制作
した‘無意識と意識の間’に魅了され続けている。濃淡ににじみを加えた表現は
アンフォルメルが水墨画の進化ヴァージョンとして変容したようにも映る。
ラインハート(1913~1969)の作品は一見すると黒一色にみえるが、
じっとながめていると微妙にトーンを変えた黒がみえてくる。テートモダン
にある‘抽象絵画No.5’では正方形のカンヴァスのなかに十字が描かれてい
る。こういう繊細な表現はみえたりみえなかったするので抽象画としてはか
なり高尚なイメージ。正方形という端正な画面なのにその奥はぼやーっとし
た闇につつまれてのが抽象画らしい。