ルネサンスの時代にダ・ヴィンチが絵画のど真ん中にいたように、20世紀
において美術の世界で君臨していたのがピカソ(1881~1973)。
絵画や彫刻などをみることが食事と同様日々の活力のもとになったのだから、
世界中の美術館をまわって美術の本に載っている有名な作品をみることに
エネルギーを注いでみようと、思うようになった。
ピカソが1937年に描いた‘ゲルニカ’と対面できる機会がやって来たのは
1990年のこと。その2年後にソフィア王妃芸術センターに移ったが、そ
のときはプラド美の別館で展示されていた。この絵はピカソの遺志に基づい
て1981年アメリカからスペインに返ってきた。展示室に入ると安全な
管理のために絵は防弾ガラスで覆われており、2人のガードマンが厳しい顔
をして立っていた。ピロピリする雰囲気で絵画をみたのははじめてなので落
ち着かなかったが、右の発狂するかのように手を上にあげて泣き叫んでいる
女の姿を目にやきつけた。‘これがゲルニカか!今本物を見ているぞ!’、
過剰に興奮していることを十分自覚している。
2011年にソフィアセンターに出かけ‘ゲルニカ’と再会した。もう防弾ガラ
スは無く、みな最接近してながめていた。目が一度慣れているので縦3.5
m、横7.8mの大画面に近づいたり、ちょっと離れたりして時間をかけて
てみた。白黒のモノトーンだが、この描き方のほうが悲嘆や苦痛で体をよじ
り重なり合う人物や牛、馬が腹にズシンと響く。そして、青の時代に描かれ
た‘青衣の女’に会えたのは大きな収穫だった。
ダリ(1904~1989)の‘果てしない謎’の前でも気分は最高にハイにな
った。全作品の中でもっとも複雑な解釈が仕掛けられた絵で、少なくとも6
通りのイメージが成り立つといわれている。たとえば、画面の上で視線を左
端から右に移動させると‘頬杖をついて横になってい男’が現れ、中央あたりを
じっとみていると‘左向きに走るグレーハウンド犬’の首や前足がみえてくる。
ダリ同様、たくさん展示されているミロ(1893~1983)で目を惹くの
は今年2月Bunkamuraで開催された回顧展に出品された‘カタツムリ,女、花、
星’。ソフィアセンターは太っ腹、こんないいミロをみせてくれた。