パリにはポンピドーセンターのほかにもうひとつ近代絵画や現代アートを楽
しめる美術館がある。エッフェル塔からそう遠くないところにあるパリ市立
近代美とピカソ美。2つとも1990年個人旅行でパリの美術館巡りをした
とき出かけた。Aグループが大きな美術館のルーヴル、オルセー、ポンピド
ー、Bグループがマルモッタン、オランジュリー、プティ・パレ、パリ市近
美、ピカソ、モロー、ギメ(東洋美術)、そしてCグループが彫刻のロダン、
ブールデル、デ・ファンス(野外彫刻)。
パリ市近美は予想以上に目を見張らせる作品がたくさんあった。パリでフラ
ンス人だけでなく世界中からやって来た大勢の芸術家が時代を切り開く新し
い美術を創作するため全精力をこめて日夜奮闘していたのだから、いい絵や
彫刻があっても驚くほどのこともなく当たり前のことかもしれない。マティ
ス(1869~1954)の‘ダンス’がみれたのは大収穫だった。エルミタ
ージュにある‘ダンス’とちがって人物表現は意匠化され装飾性を高めた色使
いになっている。どのパネルも縦、横3mをこえる大画面。3つあわせると
横幅がピカソの‘ゲルニカ’をこえる大きな作品になる。
画面の大きさならデュフィ(1877~1953)の巨大壁画 ‘電気の精’
にはかなわない。高さ10m、幅60m(画像は左の半分)。これは
1937年のパリ万国博覧会の最大の建造物である電気館のために制作され
た。デュフィにこんな絵があったのか!
抽象絵画に人気ランクをつけるとドローネー(1885~1941)の‘リズ
ム’はカンディンスキーの美しい作品とともに第一列で並んでいる。この大円,
小円がぐるぐる回っているイメージは精密な時計を分解したときの内部をみ
ている感じ。そして、円は前後にも揺れており、壮大な宇宙がぎゅっと凝縮
されたようにも映る。シュルレアリズムのメンバーとして活躍したブローネ
ル(1903~1966)はユダヤ系のルーマニア人。彫刻の‘集団’を立ち尽
くしてみていた。ひとつの頭を3人の男女が共有するという発想が意表をつ
く。この作品でいっぺんに名前を覚えた。
マティスのフォーヴィスムにも参加したドンゲン(1877~1968)の
‘スフィンクス’の前ではたじたじになった。目力の強い美女の存在感はまさに
スフィンクスに相応しい。パナソニック汐留美で開催中の‘ドンゲン展’
(7/9~9/25)にそろそろ出かけるつもり。