‘貴婦人と一角獣 視覚’(1500年頃 国立クリュニー中世美)
ラファエロの‘一角獣の貴婦人’(1505~06年 ボルゲーゼ美)
ダ・ヴィンチの‘白貂を抱く貴婦人’(1490年 チャルトルスキ美)
今年は国内各地の美術館で開催される特別展が活況を呈しており、かつての
ように期待で胸を膨らませて足を運ぶことが多い。美術好きの人を誘って出
かけることが増えると、5年前も○○さんとすごい展覧会を一緒にみてたな、
と感動した作品のことが懐かしく思い出される。
2013年、とてもありがたい美術品が国立新美に登場した。それはフラン
ス国立クリュニー中世美が所蔵する大きなタピスリー‘貴婦人と一角獣’。
1500年頃、制作された有名なタピスリーがパリにあることは知っていた
が、ほかの美術館まわりが先になってクリュニーにたどりつけなかった。
気になっている作品がわざわざ日本までお出まし頂けるのだから、ワクワク
気分でみていた。描かれているテーマは‘触覚’から‘視覚’までの五感にそれを
統御する心‘我が唯一の望み’を加えた六感。
お目当ての一角獣をもっとも存在感があるように構成しているのが‘視覚’、
貴婦人もやさしく一角獣の背中をなで鏡をみせている。左にいる獅子はここ
は脇役とわきまえている。これに対し、‘我が唯一の望み’では青い天幕がはら
れ一際豪華な舞台が設定され、獅子が王者らしく吠えている。この絵で一角
獣をみる前、この想像上の動物に遭遇したのは2回しかない。ローマのボル
ゲーゼ美でお目にかかったラファエロ(1483~1520)の‘一角獣の
貴婦人’とパリのモロー美から汐留ミュージアムのモロー(1826~1898)
の回顧展に出品された‘一角獣’。ラファエロの絵はダ・ヴィンチの‘モナ・
リザ’の構図をそのまま使い両手をあわせたところに一角獣(処女性の象徴)
をちょこんと描いている。ラファエロが一角獣をモチーフにするとは思って
もみなかった。
ダ・ヴィンチにも‘白貂(はくてん)を抱く貴婦人’がある。この絵は2001
年日本で披露された。このころ名古屋で仕事をしていたが、嬉しいことに京都
市美のあと松坂屋美に巡回してきた(この次横浜美)。この絵を所蔵している
のはポーランド・クラクフにあるチャルトルスキ美。この街を旅行すること
はまずないから、展示室では天にも昇るような気持でながめていた。白貂なん
てまったく縁がないので興味津々だが、目が離れているのでリスのように愛着
は感じない。だから、視線はとても大人しい女性にみえる貴婦人のほうにむか
う。数の少ないダ・ヴィンチの絵が日本でみれるとはなんという幸運。指折り
数えられる‘最高の瞬間’のひとつになった。