第一次世界大戦のあと活気が戻ったパリで一世を風靡した女流画家が二人い
た。ローランサンと彼女より15歳年下のレンピッカ(1898~1980)
。帝政ロシアの上流社会に育ったレンピッカはロシア革命ですべてを失い
パリに亡命してきた。時代の最先端をいく女性でその美貌と最新のファッシ
ョンで脚光をあびた。そして、自分の生き様をそのまま絵で表現した。モデ
ルから放たれる金属的な光沢は硬質な画面の質感を生み出しアール・デコを
象徴する女性像が誕生した。
もっとも有名な肖像画が‘緑の服の女’。圧が強く猛禽のイメージのするこの
女性は娘のキゼットでカッコいい肉食女子という感じ。2010年、Bunka
muraで開催されたレンピッカ展で絵の存在をはじめて知ったが、200%
KOされた。同じく緑のメタリックな輝きに圧倒される‘自画像’にもガツーン
とやられた。これはオリジナルの油彩のシルクスクリーン版だが、自動車を
運転するレンピッカのモダンすぎる感性がそのままでている。
‘マルジョリ・フェリーの肖像’は誘うような視線がとても気になる。彼女
はキャバレーの歌手で夫が絵を依頼した。金髪で背が高いのですぐド
イツ人を連想する。最近よくみている古い映画に登場する女優はこういう
タイプが多い。派手なのは金髪だけで画面全体はモノクローム的な作品。
‘男性の肖像’のモデルはレンピッカに夫、これは未完成で左手が最後まで描
かれていない。その理由は二人は離婚の瀬戸際にいたから。夫は家庭を顧
みず浪費にふけったため、レンピッカは愛想をつかしており結婚指輪がは
められた左手をわざと描かなかった。
回顧展に遭遇する以前に唯一レンピッカの作品としてインプットされていた
のが、ニューヨークに移った年に描かれた‘腕組みをする女’。この女性は
十代後半のキゼット。均一にぬられた青を背景に、物思いに沈んでいる娘の
姿が目に焼きついている。生気のなさはどうしたのだろう。‘緑の服の女’と
の落差がありすぎる。