女流画家列伝をみると印象派のグループのなかで活躍したモリゾやカサット
のあと思いつくのはマリー・ローランサン(1883~1956)。これま
でまとまった形でみたのは2回、どちらも日本のコレクターが蒐集したもの。
2007年、鎌倉にあった大谷記念美(今は無し)でコレクションが披露さ
れた。その3年後、千葉の川村記念美で蓼科にあったマリー・ローランサン
美(こちらも今は無し)が所蔵する作品によって回顧展が開催された。
ほかの美術館でも、たとえば、山形美も5,6点もっており、広島県立美、
松岡美、ア―ティゾン美(旧ブリジストン美)でもお目にかかった。
国内でもローランサンは結構みれるが、情報が不確定なのが大谷コレクショ
ンとマリー・ローランサン美のこと。ほかの美術館とかコレクターの手に渡
ったのだろうか。3,4年前ホテルニューオータニにマリー・ローランサン
美が移ったと聞いたが、それもまた休館になったという。
海外の美術館でローランサンが楽しめるのはパリのオランジュリー美。ここ
でみた‘シャネル嬢の肖像’がMyベスト1。淡い紫やピンクの色調と簡潔な
フォルムによる憂いをたたえた詩的な女性像が印象深い。この絵にはおもし
ろい話がある。モデルは当時人気絶頂だった女性デザイナー、ココ・シャネ
ル。彼女はこの絵が気に入らなかったので描き直しを要求したが、ローラン
サンは‘私はドレスを注文したら代金を払うわ。シャネルなんて、しょせん
田舎娘よ’と怒って、描き直しを拒否した。
ローランサンの母親は未婚のままでマリーを産んだ。母親の遠縁にあたる
女性を描いた‘シモンヌ・ローランサン’もとても惹かれる肖像画。顔や肌に
使われている白はピンク、灰色、青の組み合わせをより引き立てている。
恋人の詩人アポリネールと友人たちが登場する群像肖像画はピカソのキュビ
スムに影響されたフォルムがみられ、狐のような顔とアフリカの仮面を連想
させる人物表現になっている。真ん中にいるのがアポリネールでその右が
ピカソ。右端がローランサン。
角々していた初期の人物の顔がしだいに丸くなり、女性のもつ柔らかさ、清
らかさは感じられるようになる。なんだか宝塚歌劇団風の優しい世界に誘わ
れてるよう。日本にあるローランサンでは‘少女と小鳥’と‘三人の若い女’に
魅了されている。