‘エドモン・メートル’(1869年 ワシントンナショナルギャラリー)
絵の描き方のスタイルから絵描きのグループが生まれてくるが、パリのオル
セーへ出かけると多くのファンのいる印象派の傑作に遭遇できる。美術本を
揃えると印象派の画家たちの画風が蓄積され、どの画家が人気が高いかが
わかってくる。美術史家ではないので一回目のオルセーでは好みの画家の
作品に鑑賞エネルギーの大半は注がれる。たとえば、マネ、モネ、ルノワー
ル。そのあと、ほかの画家たちの絵もみることになるが、真に絵の価値が心
に沁みてくるまでにはだいぶ時間がかかる。フランス南部モンペリエの名家
に生まれたフレデリック・バジール(1841~1870)もそのひとり。
バジールの代表作‘家族の集い’は確かにみた記憶はあるが、この絵とよく似
ているモネの‘草上の昼食’のほうに気をとられ、バジールの群像人物画の印象
が薄い。だから、この絵に描かれている11人の男女のうち一人の男性を除
いてみんな顔をこちら側にむけていることにはまったく気づかない。南仏の
明るい日差しは気持ちいいのだが、記念写真を撮っているようで堅ぐるしさ
は否めない。でも、一人の人物画だとこの視線はとても魅力的に映る。‘村
の眺望’は赤いリボンとヘア飾りをした若い女性の愛らしい姿が胸にズキンと
突き刺さる。
ハーバード大学にあるフォッグ美でお目にかかった‘夏の情景 水浴する男た
ち’は刺激にみちている。水浴画というとセザンヌの絵にみられるように描か
れるのは女性というのはお決まりだが、バジールは意表をついて男性たちに
水浴を楽しませている。人物の数が多いような気もするが、一人々の姿に変
化をつけペアでレスリングをさせたりして動きのある構図に仕上げている。
‘バジールのアトリエ’はバジールの仲間たちがアトリエに集まっている様子
が描かれている。真ん中に立っている背の高い人物がバジール、カンヴァス
をみているのはマネでその後ろにいるのがモネ。そして、階段の上から話か
けているのはゾラで、それに下のルノワールが応じている。右の奥でピアノ
を弾いているのは音楽家のエドモン・メートル。バジールともっと親しかっ
た友人のひとりがメートルでワシントンのナショナルギャラリーには彼の
肖像画がある。メートルも上流階級の出身で二人はクラシックの演奏会に
頻繁に足を運んだ。日本でも披露されたメールの肖像画は洒落た着こなし
に品があり、マネの肖像画にもひけをとらない。