‘罪’(1893年 カタリ―ナ・ビュティカー・コレクション)
分離派というとクリムトが1897年につくったグループがすぐ思い浮かぶ
が、この美術界の新風が最初に起こったのは19世紀末、芸術の都として輝い
ていたミュンヘン。1892年に創立されたミュンヘン分離派の主要なメン
バーだったのが当時の画壇の中心にいたフランツ・フォン・シュトゥック
(1862~1928)。カンディンスキーが画家になるためミュンヘンに
移りアカデミー(国立美術学校)で絵の修業をしたときの教授がこのシュト
ゥック。
シュトゥックは大きな影響を受けたベックリンと同じように古代神話や伝説
の世界を描くとともに、‘ファム・ファタル’の画家としてのイメージも強く、
世紀末の退廃的な象徴主義絵画につながっている。代表作の‘罪’は12点の
ヴァージョンがあり、男を誘惑する究極のファム・ファタル(妖婦)かもし
れない。この絵に会ったときは美形の女性の体にまきつく黒い蛇に心臓がと
まりそうになった。昔から大の苦手の蛇がこれ以上にない怖い姿で現れ今に
も絵から飛び出してきそうでヒヤヒヤした。
愛しい聖ヨハネの首の前で妖艶な踊りをみせる‘サロメ’にもぐらっとくる。
世紀末、ファムファタルとしてのサロメが大流行するが、シュトゥックの表
現する魔性の女はゾクゾクっとするような怖さがある。初期の作品‘罪無きも
の’は純潔と無垢を象徴する白い百合の花を手にしている少女が正面向きで描
かれている。しかし、ちょっと不安定な感じがありファムファタルの出現を
予感させる。
‘闘うアマゾン’と‘パラス・アテナ’は売れっ子の女優とかモデルを思わせる
綺麗な女性が女戦士と戦いの女神のモデルになっている。戦う女性がこれほ
ど魅力的だと即ファムファタルに変身する。ミュンヘンには宮殿並みの規模
と豪華さを誇るシュトゥックの邸宅が残っており、現在は市立美術館として
公開されているという。ミュンヘンを再訪したときは、是非寄ってみたい。