ベルギーのブリュッセルには3度縁があり、ベルギー王立美における名画と
の出会い、賑やかな街中のレストランで美味しいムール貝にありついたこと
など楽しいひとときが重なっったのですっかりベルギーファンになった。
王立美では古典絵画のブリューゲルやバロックのルーべンスのほかに近代
絵画にもベルギーが生んだ偉大な画家マグリット、デルヴォー、そしてフェ
ルナン・クノップス(1858~1921)の傑作が並んでいた。
ベルギー象徴派のど真ん中にいたクノップスの代表作‘愛撫’と遭遇したのは
一生忘れられない鑑賞体験。視線を集めるのがチータの姿をしたスフィンク
ス。エジプトでみたスフィンクスがチータに変容しようとは。しかも顔は
女性(モデルは最愛の妹マルグリット)というハイブリッド種。さらに不思
議なのがマルグリットがうっとりと頬を寄せている青年。女性的な顔立ちで
両性具有の人物として登場している。クノップスの描く男女は無表情で男か
女か判然としないのが特徴。この神秘的で謎をはらむ表現がクノップスの大
きな魅力である。
‘眠れるメドゥ―サ’は意表をつく描き方が目を引く。音を感じさせない静寂の
なかでギリシャ神話の怪物メドゥ―サが鷹の羽をつけしゃきっと立っている。
見る者を石に変えてしまう力をもち恐れられている怪物が鷹の姿で沈思して
いる。これがクノップフ流の神話画。その一方で、ブロンズ像‘メドゥ―サの
首’では本来の怪物のイメージで強烈な存在感をアピールしている。蛇の頭髪
は怖すぎてあまり長くはみれない。
‘蒼い翼’もギリシャ神話の眠りの神ヒュプノスが主題になっている。クノップ
フは青が好きな色で頭の片方だけに蒼い翼をつけ、自宅にこの像を置く祭壇
を設けていた。‘我が心は過去に涙す’は若き詩人の作品集の口絵となったもの。
夜の夢の場面を死せる都の雰囲気につつんで描いた。幼い頃住んでいた静寂
なブリュージュの教会を背景にして若い女が鏡に唇をよせナルシスムモード
にはいっている。