‘花飾りの帽子を被った自画像’(1883年 オステンド市美)
アンソールが生まれたベルギーのオステンドは北海に面する避暑地で、一流
のホテルやカジノなどが建ち並んでおり‘海水浴場の女王’と称されるほどの
人気のスポットだった。アンソールの母方の実家はここでリゾート客目当て
の土産物屋を営んでいた。玩具、置物、陶器、仮面のなかには日本の面や
衣裳、団扇などもあった。‘花飾りの帽子を被った自画像’をみるとアンソー
ルはなかなかのイケメン。イギリス人の父親とベルギー人の母親のどちらに
似ているのだろう。
アンソールは20歳のときブリュッセルの美術学校を去りオステンドの実家
に戻り、それ以降は屋根裏をアトリエにしてこの町で作品を描き続けた。
自画像は23歳のときのもの。小さい頃から中国や日本のものは見慣れてい
たので‘東洋の品々のある静物’はすぐ合点がいく。アントワープ王立美には
‘シノワズリー’と呼ばれる素描があり、北斎漫画を模写した‘突進する武士’が
含まれている。
‘オステンドの海水浴場’はカリカチュアのような光景。四角の画面に海水浴を
楽しむ大勢の人たちがびっしり描かれている。小さい頃、夏休みになると
何度も海水浴場にでかけおもいっきり泳いだ。今は、日本中どこの海でも
禍により海水浴が楽しめない。子どもや若い人には同情するが、あと2年く
らい辛抱するともとの生活が戻ってくるかもしれない。
‘オステンドの眺望(オステンドの屋根)’はホテルの窓から町の景観をみてい
るような気分にさせる風景画。こういうゆったり眺められる風景画がほかに
ない。白い雲の動感描写と縦と横のスッキリとした線によって連続する建物
の屋根をみせる表現に魅了される。ヴァトーの雅宴画を意識した群像画‘愛の
園’は一見するとプラハでみた人形劇を連想させる。色彩的には緑の地面と
背景の白の輝きが強く印象に残る。