‘首吊り死体を奪い合う骸骨’(1891年 アントワープ王立美)
西洋画家のなかにはモネやピカソのように日本で回顧展が何度も行われる画
家がいる。その一方で関心が高いのに縁がまったくないものもいる。
展覧会の華である回顧展は2回遭遇するのが理想だが、ベルギーのジェーム
ス・アンソール(1860~1949)は運に恵まれてこれが実現した。
16年前の東京都庭園美(2005年)と損保ジャパン美(2012年)。
この画家はもう一度まとまってみる機会があった。それはブリュッセルにあ
るベルギー王立美。ここは2度訪問したが、アンソールはベルギーの画家だ
から片手くらい展示されていた。
こうした鑑賞体験が積み重なってアンソールは‘仮面と骸骨’の画家というイメ
ージができあがった。仮面の代表作がアントワープ王立美が所蔵する‘陰謀’。
アントワープは2回も行ったのに王立美へ寄る時間がなくて‘陰謀’などをみ
ることができなかったが、嬉しいことにここのアンソールがごそっと損保ジャ
パン美にやって来てくれた。‘陰謀’はバリエーションに富んだ仮面をかぶった
人物の上半身だけが描かれ横にドーンと並んでいる。仮面をつけると人は大胆
な行動をしたり、よからぬ悪事を企むもの。つけられたタイトルからいろいろ
な人間バトルを連想する。
愛知県の小牧にあるメナード美がもっている仮面づくしの‘仮面の中の自画像’
は今ホットな人物と結びつく。今日の試合で40本目のホームランと放ち投手
としても8勝目をあげた二刀流大リーガー大谷翔平。所属するエンゼルスは
大谷の顔が数え切れないほどたくさんプリントされたTシャツをつくったが、
これがアンソールの仮面だらけの絵を思い出させる。
仮面と骸骨が一緒にでてくる‘仮面と死神’、‘首吊り死体を奪い合う骸骨たち’、
‘絵を描く骸骨’も一度見たら忘れられない。骸骨が登場する絵ですぐでてくる
のはブリューゲルの‘死の勝利’(プラド美)、アンソールは同じベルギーつな
がりでこの絵を意識したのかもしれない。‘首吊り死体を奪い合う骸骨たち’は
とても怖い絵で2人の女性の骸骨がほうきとモップを手にして戦っている。
首吊りで死んだ男を奪ってどうしようというのか。左右のドア口で固唾をのん
でこの争いをみている仮面たちも不気味。‘絵を描く骸骨’はよく知られる‘死の
舞踏’の一種、アンソールはアトリエにいる自分を骸骨の姿で表現している。