‘フィレンツェ、マネッリ塔からの眺め’(1948年 メルツバッハーコレクション)
海外の美術館が所蔵する絵画コレクションを紹介するのは美術館が開催する
定番の企画展。2016年に遭遇したデトロイト美展(上野の森美)は予想
を上回る名画の数々にテンションが上がりっぱなしだった。‘エルベ川、ドレ
スデン近郊’はその一枚。ココシュカが風景画に本格的に取り組むのは
1920年頃からで、この絵では厚塗りの鮮やかな絵具を使って前面にエル
ベ川が水平に流れる都市の景観図を描いた。
同じ頃の作品‘ダン・デュ・ミデイの山’はスイスの旅行をもとにしたものだが、
エルベ川と同じように馬車を左右から水平に移動させ背後にはスイスアルプ
スのとんがった山々を平板的に並べている。視線が自然と向かうのは太陽の
光、このまわりに広がる同心円の光がとても神秘的で中景の細かく描かれた
木々の枝が小さいのに目に飛び込んでくる。
この2点に対して、1925年の‘アヴィニョン’や第二次世界大戦後に描かれ
た‘フィレンツェ、マネッリ塔からの眺め’は水平的な構図が消え、街を高い
位置からみる俯瞰の構図をとっている。ヴィンタートゥール美はスイス美術
館巡りのときフルマークの美術館、ココシュカのいい風景画をしっかりもっ
ているのは流石である。アヴィニョンでは緩やかに曲がる川を中央に描いて
画面を分割しているが、フィレンツェは川に橋を加えてさらに画面を分けて
いる。俯瞰の視線により街の活気が生き生きととらえられている。
‘モンタナの風景’はアルプスの名峰を臨む壮大な景観が目の前に広がっている。
軽やかな筆さばきと水彩のような透明な色彩でいろどられた山々と麓の建物
が広大な空間におさまっている。これは61歳のときの作品。ココシュカの
風景画はみればみるほど惹かれる。