‘作家ハンス・イェ―ガーの肖像’(1889年 オスロ国立美)
海外の美術館をいろいろまわっていると美術本に載ってない作品と遭遇する
ので、画家の作域の広がりがだんだんわかってくる。ムンクの場合は肖像画
の名画に感銘を受けることがよくあった。オスロ国立美で大きな収穫だった
のが‘作家ハンス・イェーガーの肖像’。この男性はいかにも作家という感じで
、思索的な表情は強い存在感を生んでいる。ムンクの肖像画がこれほどいい
ものだということを実感した。
‘画家の妹、インゲル’のキリットしたまなざしも忘れられない。肖像画は
体全部が写実的に描かれる必要はなく、逆にポイントのなるところ、すなわ
ち目がしっかり描かれていると印象深い肖像画として心に刻まれる。妹の
内面をしっかりとらえた目つきをじっとみていた。‘カーレン・ビョルスタ’は
ムンクの母親の妹、母親が結核で亡くなるとこの叔母さんが家にきて家族の
世話をしてくれた。なかなかいい肖像画でムンクが叔母に抱く感謝の気持ち
がこめられている。
ムンクは長い生涯のあいだに多くの自画像を描いている。オスロ国立美には
‘煙草をもつ自画像’があり、ムンク美もたくさん所蔵している。そのうちの
有名なリトグラフなどが2018年のムンク展(東京都美)に11点出品さ
れた。‘自画像、時計とベッドの間’は老人のムンクが描かれており、背後の
部屋にはこれまで制作した作品が埋め尽くされている。老人の赤くいろどら
れた顔、青の上着、緑のズボン、そしてベッドの色鮮やかな模様。なんだか
マティスの絵をみているよう。
第一次世界大戦のさなかに描かれた‘家路につく労働者’のとても力強い絵。
線遠近法が用いられ、左奥の消失点のところから大勢の労働者がこちらにや
ってきている。中央の腰を曲げた老人の大股歩きが帰宅を急ぐ気持を如実に
あらわしている。仕事を終えたあとのワインが楽しみにちがいない。