森繁久彌が社長を演じる‘社長シリーズ’(全33作品 東宝)のDVDがす
べて揃ったので、暇さえあればみている。その結果、この喜劇映画のお
もしろさをうみだす役者の演技やセリフに感心させられことが多く、その
シーンになると待ってました、とばかりに笑いがこぼれる。もともと映画
は大好きだが、腕のいい監督やよくできた脚本をもとにつくられた映画は
やはり一級のエンターテイメントであることを思い知らされる。
社長の森繁久彌とコンビを組むのが秘書役の小林桂樹。みるからに人間性
のいい顔をしている。この役者は恋愛のシーンは一番下手だが、‘食べ芸’
なら日本一といわれている。その得意の芸を披露するため、よく食事の場
面がでてくる。もっとも多いのが朝ご飯を食べるシーン。とにかくセリフ
をしゃべりながら自然にきれいに食べる。演じているというのではなく、
われわれが家庭生活で食卓にのぼるものを食べように、あるいは宴会に出
された御膳を夢中になって食べるようにリズミカルに元気よく食べる。
こういう食べるシーンはサラリーマン映画には欠かせないものだから、
この映画のおもしろさのひとつになっている。
‘続サラリーマン忠臣蔵’では運転手兼秘書の小林桂樹は接待した相手会社の
重役に気をつかうどころか中華料理をむしゃむしゃとたいらげてしまう。
映画だからおもしろくしてあるが、最後には上役の加東大介(営業部長)
からに小言をいわれてしまう。このシーンをみるとやたら中華料理が食
べたくなる。そういえば、コロナ禍のこともあり横浜中華街にはずいぶん
ご無沙汰している。
手元にあるルーベンスの美術本のなかに‘人の心をつかむにはまず胃袋から’
という諺がでてくる。家族、知人、友人といるときはいつもこれを心掛けて
いる。