縦長の短冊判に描かれた浮世絵花鳥画はモチーフが坂道を駆け降りる感じが
あり、横長の長方形のものと比べるとスピード感や瞬発力が強く印象に残
る。切手にもなった‘月の雁’は広重の花鳥画の代表作。大きな月を背景に群
れをなして飛ぶ雁を発想するところに広重の自然に対するほとばしる情感が
でている。
‘雪中椿に雀’は深々と降り注ぐ雪の寒さが身に沁みるのか二羽の雀の羽根を
ぱたぱたさせる姿につい感情移入してしまう。こういう光景によくでくわす
が、雀が枝にとまるとき積もった雪がどすんと音を立てて落ちる。‘旭日松に
鷹’も傑作。鷹の鋭い目をみると今にも狙った獲物めがけて飛び出しそう。
‘獅子の児落し’は同い年の国芳も手がけた画題、二人とも縦長の画面を使って
崖に垂直感をだしている。広重の親獅子はゆるキャラ風で親の厳しさはあま
り伝わってこない。逆に児獅子のほうが獅子らしい怖い顔をしており、‘父ち
ゃん、俺は必死に険しい崖をどうにか登ってきたんだから、気まぐれに突き
落とすなんてことはしないでくれよ。またやったら、俺本当に怒るからな!’
と一発かましているのかもしれない。
‘桜に猿’はおもしろい取り合わせ。猿回しの猿がはらはら落ちる桜の花びらを
じっとながめ物思いにふけっている。高崎山の仲間たちのことが思い出され、
淋しさがつのっているのだろうか。師匠にたまには里帰りさせるように言っ
とくからしばらく我慢して頂戴な。ちび太郎ちゃん!