魚料理にはいろいろな調理法がある。刺身、焼き魚、煮たもの、鍋、ゆで上
げたもの、てんぷら、フライ。わが家の食卓にのぼるのは焼魚(さんまの塩
焼き、あじの開き、ブリの照り焼き)、てんぷら(海老、きす)、フライ
(鯵、牡蠣)が多い。小さい頃はめばるやかれいの煮つけをよく食べたが、
今はときどき金目鯛、かれいがでてくる。1年くらい前から美味しくいただ
いているのが帆立をいれた炊き込みご飯。前はほかの具だったが、帆立にし
てみたら大変美味しかったのでこれが楽しみになっている。
刺身についてはスーパーで盛り合わせを購入する習慣がない。刺身が嫌いと
いうのではなく、家で晩酌をすることがないのでとくに食べようという気に
ならないから。宴会がなくなったので、刺身を食べる機会が消滅している。
だから、行きつけのお店で注文する山陰や北陸でとれる魚のこりこりした
刺身が食べたくて仕方がない。
歌川広重(1797~1858)が天保年間(1830~1844)に描いた
‘魚づくし’の揃いものシリーズは食欲をそそる魚図鑑のようなもの。広重は
円山応挙風の鯉の絵を描いており、この鯉も体が上のほうに進んでいく感じが
よくとらえられており、鯉の滝登りを連想する。清流を泳ぐ魚というと鮎。
鯉同様、動感描写がなかなかいい。近代日本画では福田平八郎が鮎の名手。
鯛と伊勢海老は正月のご馳走かパーティでしか食べることはないが、立食
パーティもとんとないので今は蟹を加えた正月のささやかな豪華料理で食欲
を200%満足させている。‘鮑とさより’は広重の細やかな観察眼はうかがえ
る一枚。鮑の身やさよりの鱗が丹念に描かれているだけでなく、赤い桃の枝
をそえて毛色の変わった静物画に仕上げている。