新宿中村屋は名の知れた菓子家だが、創業者が芸術好きのパトロンだったこ
とを知ったのは彫刻家の萩原守衛や洋画家の中村つねらに関心がいくように
なってからのこと。何年か前に建物が改築されたという話はインプットされ
ているが新宿は年に数回くらいしか出かけないので建物のなかにつくられ
ている所蔵品の展示ギャラリーはまだ縁がない。
水戸市出身の中村つね(1887~1924)が1913年に描いた‘少女’は
創業者の相馬氏の娘がモデル。片方の胸をはだけじっと前を見る目のインパ
クトがとても強い。ルノワールの描き方を思いおこさせるが、このほどの目
力の強さはルノワールの描く女性にはみあたらず中村独自の裸婦図になって
いる。
最近は東近美へ足が遠ざかっているので村山槐多(1896~1919)の
代表作‘バラと少女’をもう何年もみていない。幸い、2009年の暮れに渋谷
区立松濤美で行われた回顧展の遭遇したのでそのとき手に入れた図録をとき
どきながめ槐多の豊かな才能に感じ入っている。横須賀美にある‘のらくら者’
は煙草をふかす着流しの男の強い存在感が忘れられない。木炭でざざっと描
いてだけで人物の内面まで深くとらえられるのだから恐れ入る。
なかなかのイケメンである松本竣介(1912~1948)の‘お濠端’はほぼ
青一色の風景画。都会の一角を描いた作品はモチーフが角々し水平な線と垂
直な線が交錯する特徴をもっているが、この絵に描かれた皇居のお濠端はまる
でちがうイメージで木々は丸くなり画面全体にまるい塊が連続している。
神奈川県近美同様、堂本尚郎(1928~2013)の‘連続の溶解16’と
リ・ウファン(1936~)の‘線より’がセットでおさまっている。堂本の
抽象画がすっきりした現代感覚のモザイク模様に吸いこまれるのに対し、リ・
ウファンの創作は見る者に感じる余裕を与えてくれる。浅い海の底に根をは
りゆらゆら動いている海中生物を連想した。