鏑木清方の‘江ノ島 箱根’同様、画面の大きさで目を惹く絵がある。杉山寧
(1909~1993)の‘翠蔭’。夏の暑さのなか水車で水遊びをする少年たち
が描かれている。24歳の杉山は後年の深い色使いで神秘的ともいえる作品と
はまったく異なる作風で子ども絵をてがけていた。真っ黒に日焼けした少年た
ちの元気な姿と水しぶきや葉の精緻な描写が目に焼きついている。
横須賀美は本館とは別に谷内六郎館がある。週刊新潮の表紙絵で名が知られる
谷内六郎(1921~1981)は横須賀市鴨居にアトリエを構えていたこと
が縁で市に表紙絵や資料が夫人によって寄贈された。それらの作品が竹内六郎館
で常時展示されている。週刊新潮の表紙を飾ったのは子どもを主役にして描かれ
たどこか懐かしい日本の風景。ありふれた日常の光景にスポットをあてているが、ときどきドキッとするシュールな内容も登場する。‘ラッシュアワー’は蟻と遊ぶ子どもを真上からとらえる構図が意表をつく。タイトルも含めてつい唸ってしまった。
絵画が好きなのは女性画の魅力にとりつかれているためと言っても過言でない。
西洋絵画ではマネとルノワール、浮世絵の喜多川歌麿と勝川春章、日本画の美人
画なら上村松園と鏑木清方。では、洋画は誰の絵か、ズバリ岸田劉生の麗子像と
藤島武二(1867~1943)。ここには藤島武二の‘夢想’がしっかりコレク
ションされている。この絵は2017年練馬区立美で開催された生誕150年
記念の回顧展に出品された。
ここは作品を蒐集する際‘海’を描いた作品をひとつの方針にしている。その方針
に沿って選ばれた作品に藤田嗣治(1886~1968)の‘ル・ア―ヴルの海’も含まれている。これは藤田の初期に作品として欠かせないワンピースであり、回顧展にはだいたいでてくる。暗い画面なのですぐには気づかないが、1913年にパリに渡った藤田がピカソと同じようにアンリ・ルソーから影響を受けたことをうかがわせる。
岡鹿之助(1898~1998)の‘魚’も‘海’と関連する作品。ぺたっとした机
の上に並べられているのはカナガシラ、カレイ、蟹、貝。背後の壁にも魚の絵が
飾ってある。使われているのはスーラオリジナルではない鹿之助流の点描法。
根気のいる描き方だから完成するまでは緊張感を強いられる。でも、鹿之助は
ゴッホと違ってこれに嵌ったのであろう。