‘赤いチョッキの少年'(1890年 ビュールレ・コレクション)
‘大きな松のあるサント=ヴィクトワール山'(1887年 コートールド美)
西洋絵画とのつきあいがはじまったのは成人になってからで、国内外の美術
館へ足を運ぶのがだんだん楽しくなりでかける回数が増えていった。だから、
大学生の頃までは中学・高校の頃の教科書やなにかの機会で目に入った美術
本に載っていた作品が画家が描いた絵のイメージのもとになっている。
セザンヌ(1839~1906)については最初にインプットされたのは
‘赤いチョッキの少年'、‘りんごとオレンジ'、そして‘トランプをする人々'。
おもしろいことにセザンヌに関しては、このころの印象がそのまま愛着度の
強さになっている。印象派の殿堂オルセーに訪れたとき、セザンヌのコーナ
ーで気持ちが高ぶったのはやはり‘りんごとオレンジ'。静物画はこの絵によっ
てうえつけられたから、もう最高に嬉しかった。これをみるたびに思い出す
のがある有名な絵画愛好家の言葉、‘この絵はモチーフが多視点から描かれて
いてこれがピカソやブラックのキュビスムに大きな影響を与えた。だから、
セザンヌはモネやルノワールより上なんですよ'。セザンヌ好きには理屈っぽ
い人が多くこういうつまらないことを平気で言う。新鮮でビビッドに表現さ
れたりんごやオレンジの楽しみ方がまるでわかってない。
昨年コートールド美が所蔵する‘トランプをする人々'が目を楽しませてくれ
た。これとオルセーにある別ヴァージョンを一緒に並べたミニセザンヌ展が
オルセーが大改修をしているときロンドンのコートールドで開催された。
運よくこれとめぐりあったが、ひとつひとつのの絵をみているとどちらも
グッとくるのに、二つが並んでいると画面のサイズに対して2人の男がより
大きく描かれているオルセーのものにどうしても目が寄っていく。貴重な
体験だった。
‘赤いチョッキの少年'と遭遇するのに長い時間がかかった。本物が姿を現し
たのは2年前の春、この絵を知ったころは少年の右手が異常に長いことなど
考えもしないから違和感などあろうはずがない。ふしぎなことに長い時を経
てみても昔同様、すっと絵の中に入っていける。これがセザンヌのマジック。
そして、永遠に目に焼きつけられる。
‘大きな松のあるサント=ヴィクトワール山'はセザンヌの風景画で一番心地
よく楽しめる作品。手前に松の枝で窓枠をつくるようにする構図は明らかに
浮世絵の描き方を意識している。でも、セザンヌはその事には一切触れない。
浮世絵の力を借りて創作したのではないと思っていたにちがいない。
最後にたどり着いたビッグな作品が2度目のフィラデルフィア美訪問でお目に
かかれた‘大水浴図'。5年前のことだが、縦2m、横2.5メートルの大画面
に描かれた三角形構図に強い感銘をうけたことを今でも昨日のことのように
覚えている。そして、思った。この傑作をみたらロンドンナショナルギャラ
―、オルセー、そしてバーンズコレクションにある水浴図はみれないなと。