‘ぶどうの収穫(人間の悲劇)'(1888年 オードロップガード美)
‘肘掛け椅子のひまわり'(1901年 ビュールレ・コレクション)
1891年タヒチに渡ったゴーギャンは西洋とは全く異なる野生の世界と真摯
に向き合った。そこからでてくる表現にはエキゾチックすぎて悪魔的な怖さを
感じてしまうほど力がある。‘死霊がみている'はそんな極めつきの一枚。いっ
しょに生活していた少女がおびえた顔をしてベッドに横たわっているのは左奥
に死霊がいるから。自然とともに生きるタヒチの原住人が一番恐れたのが死霊。
ゴーギャンも一度みたことがあると言っている。
オルセーにある女性彫像‘オヴィリ'は不気味なイメージがとても強い。オヴィリ
はタヒチ語で‘野生・未開‘を意味し。ゴーギャンは文献を読んで月の女神ヒナと
地の神ファトウを再生させた。彫刻はほかに自分を描いた壺が有名だが、女神
像の影が重なり緊張を強いられる。
ゴーギャンはタヒチに行く前から相当ワイルドライフにのめりこんでいたから、
‘ぶどうの収穫(人間の悲劇)'のようにかなり違和感のする女性が登場する。
異様につりあがった目はどこか小悪魔の姿を彷彿とさせる。このつりあがった目
の人物はよく登場し、プーシキンにある‘浅瀬'にでてくる馬に乗った死霊の目も
忘れられない。
複数のヴァージョンがある‘肘掛け椅子のひまわり'はじっとみるとドキッとさせ
られる。肘掛け椅子の上におかれたひまわりはゴッホとのかかわりを意識した
ことをうかがわせるが、関心の的はこのひまわりよりも椅子の背もたれにかけられ
た白い布の向こう。そこにルドンの眼球を連想させる花が浮かんでいる。これ
もタヒチの死霊や悪魔の存在を意味している?