空海(774~835)の開いた高野山へ行ったことは生涯の思い出だが、
かなり前のことなのでどういうルートを通って入ったか記憶が薄れている。
金剛峯寺をみたあと奥の院に進み、最後が弘法大師廟。今は多くの外国人
がやって来ていることをTV番組でみたことがある。奥の院の神秘的な空間
に身を置くと外国の人だって心が清められるにちがいない。
金剛峯寺にある仏画や彫刻はどれも腹にズシンとくるものばかり。その
筆頭が‘仏涅槃図’。これは極上の涅槃図。もっとも印象的なのはすばらしい
釈迦の姿。巨人のような体と顔や衣の白に強いインパクトがあるため、
その下で泣き悲しんでいる弟子たちに視線がいかなくなる。
友人知人のなかに字が上手い人が数人おり、年賀状がくるたびに感心して
いる。そういう人たちなら空海の‘青年期の自筆、’聾瞽指帰(ろうこしい
き)に熱くなるかもしれない。書体は行書であることは知っているが、勢
いのある筆使いを一字々写すのは簡単ではない。無理だとすぐわかる。
運慶がつくった‘八大童子立像’のなかで一番グッとくるのが‘恵光童子’。
眉間に皺をよせ前方をじっと見つめる面構えがなかなかいい。3回くらい
みたが、どうしてもこの恵光童子の前にいる時間が長くなる。この迫真の
顔力で負けていないのが‘不動明王座像’。目をかっと見開き上の歯で下唇
を噛むところは歌舞伎役者の派手な演技を連想させる。
‘澤千鳥螺鈿蒔絵小唐櫃’は数多くある蒔絵作品のなかで第一列に並ぶ傑作。
驚くのは千鳥がたくさん飛んでいること。まるで花鳥画をみているよう。