高野山には金剛峯寺が所蔵する‘仏涅槃図’のほかにもう二つ巨大な仏画があ
る。‘阿弥陀聖衆来迎図’と‘五大力菩薩像 金剛吼菩薩像’。絵の存在を知った
のは2003年に行われた‘空海と高野山’(京博)。残念なことに最高傑作と
いわれる来迎図のほうは展示替えでお目にかかれなかった。そのリカバリー
が実現したのは2014年の国宝展(東博)。もう天にも昇るような気持だ
った。正面向きで大きく描かれた阿弥陀如来より視線が追っかけるのはまわ
りにいる聖衆たち。顔の白さと唇の赤がとくに印象深いが、右端には琵琶を
奏でながら微笑んでいるものがいる。このお茶目ぶりがとてもいい。
‘金剛吼菩薩像’は五大力菩薩像として描かれたものだが、明治21年
(1888)の火災で2幅が失われた。この金剛吼は一度見たら忘れられら
いほど強烈な存在感をみせる。口や目のまわりと背後で燃え盛る炎の赤が目
に焼きつく。歌舞伎役者がする隈取はこういう仏画などからの影響もあるの
かもしれない。
金剛峯寺のすぐ近くにある竜光院にはとてもいい仏画がある。国宝の‘伝船中
湧現観音像’。空海が唐に行く途中暴風雨にみまわれたとき船中に湧現してこ
れを鎮めたという観音像が描かれている。ほかと違うのは膝をくの字にまげ
る動的描写。目も鋭く緊張感があり嵐を鎮めた観音様のイメージがよく伝わ
ってくる。
時代がぐっと下って江戸時代、京都にいた池大雅が描いた‘山水人物画’にも
大変魅了される。遍照光院の襖絵でこれは3人の高士が会する山亭雅会の
場面。2年前京博であった池大雅展で再会した。こういう絵をみるとますま
す大雅にのめりこんでいく。