広島県出身の平山郁夫(1930~2009)が亡くなって10年が経つ。
回顧展がよく行われる日本画家は横山大観、上村松園、東山魁夷、そして
平山郁夫。だから、没後10年の回顧展がどこかの美術館であってもよさ
そうだが、まだ情報は入ってない。これまで平山郁夫展をやるというと必
ず出かけてきたのはこの広島の街に9年住んだことが関係している。
広島県美には平山の衝撃的な絵が飾ってある。‘広島生変図’、1945年の
夏、中学生だった平山は学徒勤労動員の作業中に原爆投下に遭遇し、被爆
した。炎で焼き尽くされる街をみつめる忿怒形の不動明王が赤く染まった
空に描かれている。その視線の先は原爆ドーム。これをみるといつも胸が
つまる。
‘受胎霊夢’は釈迦や三蔵法師の物語を絵画化したシリーズのプロローグのよ
うな作品。釈迦の母、摩耶夫人は釈迦を身ごもったとき夢に白象が現れた
といわれる。黒みがかった群青の地に金色の色を放つ白象を浮かび上がら
せることで幻夢的なイメージを生み出している。
広島県はもうひとりビッグな日本画家を輩出している。‘赤の画家’で知られ
る奥田元宋(1912~2003)、名古屋から広島に移って2年後の
1997年にここで奥田元宋展があり60点くらいみることができた。
そのなかでもっとも心を震わしたのが‘秋巒真如’、もやっとした月明かりが
湖面に映る紅葉全体を照らす神秘的な光景が目に沁みる。
千葉市美で開催された北野恒富(1880~1947)の回顧展
(2017年)に足を運んだときに遭遇した‘風’。鈴木春信にも風が強く吹
く絵があるが、それを意識したのかもしれない。風の動きを見事に表現し
たこの絵を展示室でみたという実感がない。日本画はいつも展示されてな
いので千葉でお目にかかれたのは幸運だった。