2013年に東近美で竹内栖鳳(1864~1942)の大規模な回顧展を
みて以降、この画家の絵との接触は1度あったくらい。以前はMOAで鯛の絵
などに大変感激したが、今はMOAが済マークの美術館となったので熱海
が遠くなっている。展覧会に頻繁に登場する大観と違って栖鳳の絵はどこの
美術館へ行ってもみられるというわけではない。だから、‘城址’が広島県美
にあるというのは貴重な鑑賞体験となる。墨の濃淡と深い青を重ねて武士の
盛衰のシンボルともいえる城跡を静かに描写している。
大観同様、回顧展が何度も開かれる上村松園(1875~1949)。図録
がいくつもあるほど足を運んでいるから、次の回顧展は普通の日本画家なら
もうパスになる。でも、松園はそうはならない。理由は松園の美人画は1点
々が特別の絵として存在するから。西洋絵画ではラファエロのような扱い。
ラファエロの聖母子を何度見ても飽きないように松園の描いた女性はみるた
びに新鮮にうつる。そこが松園の高い画力の証。‘観書’はこの美術館で開催
された松園展に展示された。女性のリラックスした姿に魅了される。
村上華岳(1888~1939)は菩薩像の名手、生涯に数多くの菩薩を描
いた。立像もあれば座像もある。心をとらえて離さないのがそのふっくらし
たお顔。そして、目に力があるのが特徴。肖像画では目が一番大事だが、
菩薩の目がきりっとしているのでつい見惚れてしまう。こんな菩薩像は生半
可な画家ではとうてい描けない。ここにある菩薩座像の目は切れ長風。その
鋭さは真ん丸の顔で少し中和されている。強く印象に残る一枚。
速水御舟(1894~1935)の‘隠岐の海’は兄貴分の今村紫紅(1880
~1916)の影響がみられる絵。縦長の画面に海の波の動きを表現する
のは難しいのに下半分に波をたくさん連続させ日本海の荒海の様子を見事に
とらえている。そして上半分のモザイク画のように明るい色彩にも惹きこ
まれる。