モスクワにある美術館でよく美術本にでてくるのは国立トレチャコフ美とプーシキン美。1999年にロシアを旅行したときモスクワの観光巡りにはトレチャコフ美への入館が組み込まれていた。現地の女性ガイドが有名な絵の前では画家や作品のことを説明してくれた。
これを横目にみながら彼女が触れなかったもので強い磁力を発している絵を見逃さないようにきょろきょろしながら進んだ。とにかく時間が限られているからとても忙しい。ロシアの画家が描く風景画はフランスの外光派や印象派の絵影響をうけており、思わず足がとまるものがたくさんある。
海景画を得意としたアイヴァゾフスキー(1817~1900)の‘嵐の海’は画面に釘づけになる感じ。この画家の作品は2007年東京都美であった‘国立ロシア美展’に大作‘天地創造’など3点が出品された。イギリスのロマン派のマーチンと似た画風で大変感動した。
代表作‘モスクワの庭’を描いたポレーロフ(1844~1927)は印象派のモネ(1840~1926)やルノワール(1841~1919)と同世代の画家。‘モスクワの庭’はどこにでもある景色だが明るい色調と幼児たちの愛らしい姿が心を打つ。ポレーロフはこのモチーフを何点も描いており、ここには人物なしのものもある。
シーシキン(1832~1898)の風景画にも大変魅了されている。‘ライ麦畑’は美術館の図録に見開きで載っている傑作。黄色のライ麦と後ろに並ぶ大きな幹の木々とのコントラストがじつにいい。いかにもロシアの大平原を連想させる。
ポレーロフの教え子だったレヴィタン(1860~1900)の‘静かな修道院’はいつまでもみていたくなる一枚。夕暮れ時、川の向こうに建つ修道院の一部が川の水に映りこむ光景が目にやさしい。そして、川にかかる橋の曲がり具合がなんともいい。