昨年秋、渋谷のBunkamuraで展示されたクロムスコイ(1837~1887)の‘忘れえぬ女’をみられた人がいるかもしれない。この美術館はトレチャコフ美と深く結ばれており、2009年にもこの絵をメインにした‘忘れえぬロシア リアリズムから印象主義’を開催し、その4年後の2012年には‘レーピン展’。どちらも出かけたので渋谷へは足が向かわなかった。
‘忘れえぬ女’は何度目の来日だったかご存知だろうか。なんと8度目!だから、ロシアリアリズムの作品は日本の展覧会シーンでは定番のひとつといっていい。2007年にも東京都美でサンクトペテルブルクにある国立ロシア美の名品展があり、クロムスコイやレーピン(1844~1930)などオールスターの絵がかなりの数披露された。
レーピンの初期の傑作‘ヴォルガの船曳き’(1870~73年 国立ロシア美)はまだ縁がない。一度小樽の美術館にやって来たという情報があるが、ぼやっとした話のまま。またサンクトペテルブルクに行くときはなんとしても目に入れたい。
‘レーピン夫人と子どもたち’はモネやルノワールの絵が目の前をよぎる。1873年パリに留学したレーピンは外光派や新しい印象派の絵に強く刺激された。この絵の光の表現やくつろいだ家族の光景はまさに印象派そのもの。
大作‘クールスク県の十字架行進’は正教国ロシアではありふれた宗教行事である十字架行進に集まる大勢の人々を描いた見ごたえのある風俗画。貴族、農民、軍人、僧侶、、、が画面の奥からここちらにむかって思い思いのスタイルで進んいく。絵画は社会とともにある。
レーピンに師事したセローフ(1865~1911)は肖像画の名手で‘桃と少女’がなかなかいい。こういうみずみずしい表情をつかみとれるのはほんの一握りの才能に恵まれた画家だけ。