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美術館に乾杯! サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂

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     サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂

 

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     ジョットの‘磔刑図’(1290~1300年)

 

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     マザッチョの‘聖三位一体’(1427~28年)

 

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     ギルランダイオの‘洗礼者ヨハネの誕生’(1485~90年)

 

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     ウッチェロの‘ノアの洪水’(1447~50年)

 

フィレンツェの教会は正面に面して広場があることが多いが、サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂もそのひとつ。ここではボッティチェリやダ・ヴィンチが登場する以前に活躍したルネサンスのスター画家と出会えるので大きな満足度がえられる。

ジョット(1267~1337)の黄色に輝く‘磔刑図’、最も初期の作品のひとつでこの聖堂のために描かれた。天井から吊り下げられており、キリストのわき腹から血が噴水のように飛び散るさまが痛々しい。

美術の本に遠近法の例として必ずでてくるのがマザッチョ(1401~1428)の‘聖三位一体’。だまし絵をみている感覚で神と十字架にかけられたキリストの背後がぐっと奥にへこみ立体的な空間になっていることに200%驚く。

この遠近法のマジックをみるとここへやって来た甲斐があったという気持ちに
なるが、もう一点嬉しい絵があった。それはギルランダイオ(1449~
1494)が礼拝堂のために描いたフレスコ画‘洗礼者ヨハネの誕生’。

みてて楽しいのは聖書の物語をモチーフとしながら、宗教絵画の匂いが少なく
当時のフィレンツェの風俗がこまかく描き込まれていること。中央の女性の
着ている衣服の模様がとても洒落ており、右端の女性は頭に載せた皿で果物
を運んでいる。本当にいい風俗画と出会った。

このあと期待していたウッチェロ(1397~1475)の‘ノアの洪水’をみる予定だった。ところが、運悪く教会の左手にある緑の回廊が工事中のためなかに入れない、ううーん、残念!次回リカバリーできるだろうか。

 

 


美術館に乾杯! メディチ・リッカルディ宮殿

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メディチ・リッカルディ宮殿

 

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     マジの礼拝堂

 

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 ゴッツォリの‘東方三博士の行列(ガスパール)’(1459~61年)

 

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     ‘メルキオールの行列’(部分)

 

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     ‘ガスパールの行列の背景’(部分)

美術の本にいつもでてくるとても有名な画家、例えばダ・ヴィンチのような
画家がいる一方でときどき掲載される画家もいる。こうした準ビッグネーム
の場合、心のどこかに居座り続けるものと一つの絵をみて一気に第一列に
躍り出るものがいる。

ゴッツォリ(1421~1497)は後者のタイプの画家。‘事件’がおきた
のはメディチ・リッカルディ宮殿。ここはコジモが1444年に建てさせた
あと約1世紀にわたりメディチ家の邸宅だった。館内を進みマジの礼拝堂に
入ると壁一面にゴッツォリが描いた‘東方三博士の行列’が目にとびこんで
きた。

これまでこの題材で描かれた絵を何度か体験したが、ゴッツォリのこのフレ
スコ画に一番感動した。‘ガスパールの行列’では黄金の衣装に身をつつんだ
若い王のあとに続く従者の一群にメディチ家の面々が描かれている。白馬
にまたがるのがこの絵を発注したピエロ・デ・メディチ、そしてその横の
茶色の馬に乗っているのが大コジモ。

三博士の行列をひとつひとつみているとこの壁画がすごい細密画であること
がだんだんわかってくる。王や従者たちの衣服が金色、赤、青といった鮮や
かな色に染まり、その文様も当時の最先端のファッション・モードを思わ
せる。

そして、描かれているモチーフは大勢の人物だけでなく動物がたくさん登場し
、背後の風景は木々や植物で埋め尽くされている。‘メルキオールの行列’には
トルコ風の貴族の狩猟の一行がおり、鷹やチーター、猿などが描き込まれて
いる。これはおもしろい!

 

     

美術館に乾杯! サンタ・クローチェ聖堂

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     サンタ・クローチェ聖堂の内部

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     ジョットの‘現世放棄’(1325~28年)

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  ‘聖痕を受ける聖フランチェスコ’(1325~28年)

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  ‘スルタンの前での火の証’(1325~28年)

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  ‘聖フランチェスコの葬儀’(1325~28年)

はじめてフィレンツェを訪問したときは教会をまわるたびに大きな感動があ
った。美術の本にでている初期ルネサンス絵画と対面するのだからワクワク
と同時に緊張もする。

ウフィッツィ美やピッティ美にあるボッティチェリの‘ヴィーナスの誕生’や
ラファエロの‘小椅子の聖母’はキャンバスに描かれたものなので絵の前で
いい気持になるが、教会へ行くと礼拝堂に描かれたフレスコ画の前では自然
と背筋がしゃんとする。

シニョーリア広場から東のほうへ10分くらい歩くとサンタ・クローチェ聖
堂へ着く。ここの見どころはジョット(1267~1337)の壁画。
ジョットに近づくためにはこことアッシジのサン・フランチェスコ聖堂、
そしてパドヴァのアレーナ礼拝堂をみるとほぼコンプリートになる。まだ、
最高傑作といわれるアレーナ礼拝堂のフレスコ画と縁がないが、いつかみる
ぞ!という気持ちに変わりなく決して諦めてない。

アッシジで聖フランチェスコの物語をたっぷりみたので、サンタ・クロー
チェ聖堂のバルディ家礼拝堂に描かれた壁画群にもすぐ入っていける。
‘現世放棄’は世俗を離れることを決めた聖人が衣服を父親に返している場面。
父親としては息子からもう‘お父さん’と呼ばれないのだからガックリくる
だろう。

礼拝堂の入口正面に飾られている‘聖痕を受ける聖フランチェスコ’はまるで
奇跡が起きた現場に立ち会っているみたい。宗教画にはつきものの奇跡だが、
これほどドラマチックに表現されると聖痕のあとをみてみたくなる。聖痕
のついた聖人は怖いものなし。布教で訪れたエジプトではスルタンの前で
火の証をうけようと火の中に入っていく。

画面に深く感情移入してしまうのが‘聖フランチェスカの葬儀’、聖人の死を
悲しむ人々の表情がじつにリアル、そして、わき腹についた聖痕が確認され
ている。

美術館に乾杯! サンタ・マリア・デル・カルミネ聖堂

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   アルノ川の向こう側にあるサンタ・マリア・デル・カルミネ聖堂

 

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      ブランカッチ礼拝堂のフレスコ画

 

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     マザッチオの‘楽園追放’(1425~28年)

 

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     ‘貢ぎの銭’(1425~28年)

 

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     ‘改宗者の洗礼’(1425~28年)

 

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     ‘影で病を治す聖ペテロ’(1425~28年)

 

ジョットの人物描写に大きな影響を受けたマザッチオ(1401~1428)はその描き方にさらに写実性を加えルネサンス絵画を一層飛躍させた。その金字塔がサンタ・マリア・デル・カルミネ聖堂のブランカッチ礼拝堂の壁面を装飾するフレスコ画。描かれている連作は聖ペテロの生涯。

つかみの絵‘楽園追放’が強い磁力を放っている。視線が釘づけになるのがエヴァ。深い悲しみと絶望のあまり眉毛を八の字にして泣き悲しむ姿はまさにこの世の終わりを思わせる。この絵をみただいぶあと日本の絵巻で女房たちはご主人様の失脚に大泣きする場面に遭遇した。悲しみの感情表現がよく似ていることに驚いた。

‘貢ぎの銭’は異時同図法を使って3つの場面が描かれている。右は中央にいる
キリストに言われて湖で釣った魚の口から銀貨をとりだしたペテロが収税吏に
その金を渡している場面。画面のなかに時間を導入するというアイデアは
並みの画家の頭からはでてこない。物語を連続的に描くという発想がとても
新鮮。

‘改宗者の洗礼’は忘れられない一枚。じっと見てしまうのが裸体のリアリズム。マザッチオの卓越した技量を学ぶため後にミケランジェロはここへ何度も足を運んでいる。そして、目が点になるのは冷たい儀式の順番を待っている人物が体をガチガチ震わせていること。こういう人間臭い宗教画なら気軽にみれる。

キリストや聖人の話には奇跡がつきもの。‘影で病を治す聖ペテロ’は聖ペテロ
の影に触れると病が治ると信じた病人たちがエルサレムの街角に出てきた場面。怪しい新興宗教なら教祖の体に触ると病気が治るというのは騙しの定番だが、ペテロの影でも治るというのだからこれはスーパー奇跡。

 

 

美術館に乾杯! ヴェッキオ宮殿

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     ヴェッキオ宮殿

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     ミケランジェロの‘勝利’(1519~34年)

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     ロッジア・ディ・ランツィ(回廊)

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     チェッリーニの‘ペルセウス’(1545~53年)

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     ジャンボローニャの‘サビニの女の掠奪’(1581~83年)

ヴェッキオ宮殿は大聖堂とともにフィレンツェの名所観光の定番スポット。
一見するといかめしい要塞建築のようなィケージ。鐘楼は高さ94mあり
14世紀初頭、ゴシック様式で建てられた。かつての政庁舎であり、今も
市庁舎として使われている。ここでは中に入る前に気持ちがグッと盛り
上がる。それは宮殿前に立っているミケランジェロ(1475~1564)
の‘ダヴィデ像’(レプリカ)に心を奪われるから。

宮殿内で圧倒されるのは2階の‘500人広間’、両サイドの壁にダ・ヴィ
ンチが‘アンギアーニの戦い’、ミケランジェロが‘カッシナの戦い’を描く
ことになり途中まで制作されたが、残念ながらともに完成しなかった。
もしその絵があったらと想像しながらみていた。ミケランジェロの絵画が
ないかわりに大理石彫刻‘勝利’が目を楽しませてくれる。

ルネサンス美術の宝庫、ウフィツィ美の導線部の役割を果たしているのは
シニョーリア広場にあるダヴィデ像とヴェッキオ宮殿とともに広場を囲
んでいるロッジア(回廊)に置かれた彫刻。はじめてフィレンツェを訪れ
たとき、大きな衝撃を受けたのがここにあったチェッリーニ(1500~
1571)の‘ペルセウス’。ギリシャ神話で馴染んでいる英雄ペルセウス
がこんなカッコいい姿で目の前に現れると日常世界が吹っ飛ぶ。これが
美術の力かもしれない。

もう一点ぐっとくるのがある。ジャンボローニャ(1529~1608)
の‘サビニの女の掠奪’、この彫刻をじっくりみたのはこの街に来た2度目
以降のとき。3人の男女が螺旋状に激しく絡みあう群像表現はルネサンス
様式から新しい時代の好みに一歩も二歩も踏み出している。ベルニーニ
がバロック彫刻の傑作‘プルセルピナの略奪’をつくったときこのジャン
ボローニャの作品を意識したにちがいない。

美術館に乾杯! ドゥオーモ付属美

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     ドゥオーモ付属美

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     ギベルティの‘天国の門’(1425~52年)

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     ‘アダムとイヴの物語’(部分 1425~52年)

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     ミケランジェロの‘ピエタ’(1547~55年)

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     ドナテッロの‘マグダラのマリア’(1450年代前半)

フィレンツェを象徴する建築物ドゥオーモ(大聖堂)の後ろにあるの
が付属の美術館。ジュネーブをクルマで出発しフィレツェへ出かけた
ときは2日滞在した。時間的に余裕があったので大聖堂を堪能した
あと、付属美術館にも足を運んだ。

こじんまりした展示室なのだが、展示してあるのはスゴイものが並んで
いる。200%KOされるのがギベルティ(1378~1455)が1人
で何年もかけて制作したサン・ジョヴァンニ洗礼堂の東側門扉、‘天国
の門’。洗礼堂にあるのはレプリカでここにあるのが本物。10枚の浮彫
りパネルからなり、左上の‘アダムとイヴ’から物語が下へと続いていく。

浮彫りは平らなブロンズ板から少し盛り上がったものというイメージが
できているが、この天国の門のひとつ々のパネルの立体感は尋常では
ない。厚みのある人物表現やこちらに飛び出してきそうな3Dのような
女性のポーズ、究極のリアルさを追及する高い技量にほとほと感心させ
られる。

もう一つの見どころがミケランジェロ(1475~1564)の未完の
‘ピエタ’、これはミケランジェロが70代のとき自分の墓のために彫刻
したもの。途中で大理石にひびが入ったので未完成のまま放置された。
キリストの体を支えるニコデモはミケランジェロの自刻像。

そして、ひと目見たら忘れることができないのがドナテッロ(1386
~1466)の‘マグダラのマリア’、ぱっとみると伸びた髪の長さが
半端でないので男性の立像かと思ってしまう。だが、これは改心した
マグダラのマリア。髪が足の膝の下まで垂れ下がっているのは長い期間
祈りを続けてきたことの証。これほどギョッとする彫刻像はほかにみた
ことがない。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その一

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     ヴェッキオ宮殿の横にあるウフィツィ美

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     チマブーエの‘荘厳の聖母’(1285年)

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     ドゥッチオの‘荘厳の聖母’(1285年)

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     ジョットの‘荘厳の聖母’(1305~10年)

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     マルティーニの‘受胎告知’(1333年)

美術への関心が人並みという観光客でもパリへ行けばルーブル美に入館す
るのは大きな楽しみであり、フィレンツェへ出かければウフィツィ美の
ルネサンス絵画に心がときめく。この前ウフィツィへ行ったのは2010
年だが、そのときはすでに時間予約制になっていた。今は前よりもっと
混雑してそうだから旅行会社は予約の確保が大変かもしれない。

ルネサンス芸術が花開いたのはフィレンツェ、そのためウフィツィには
初期のルネサンス絵画からボッティチェリ、ダ・ヴィンチ、ラファエロと
いった盛期ルネサンスのビッグネームの名画がずらっと並んでおり、館内
をまわっている間はテンションが上がりっぱなし。じっくりみたら俄か
ルネサンス評論家になれることは請け合い。

最初の部屋でに立ち尽くしてみてしまうのはチマブーエ(1240~
1302)、ドゥッチオ(1255~1319)、ジョット(1267~
1337)によって同じテーマ‘荘厳の聖母’で描かれた大きな祭壇画。ジョ
ットの師匠チマブーエとシエナ派の祖とされるドゥッチオの絵は聖母の顔
の描き方がとても似ている。ともにゴシックの香りがまだ幾分残っており
硬い感じはいなめないが、きりっとしたまじめそうな表情はなかなかいい。

一方、ジョットの聖母となるとがらっと雰囲気が変わる。全体的に金色を
中心に明るい色彩になり存在感をぐんと増した聖母子が目に強烈に焼き
つく。まわりの天使たちも生き生きと描かれており革新的なルネサンス
絵画がまさに誕生したという感じ。この絵をみて天才ジョットをだいぶ感
じられるようになった。

ドゥッチオとともにシエナ派の代表画家となったマルティー二(1284
~1344)の‘受胎告知’に描かれた聖母マリアのみたときは西洋の女性と
いうよりはアジア系の女性という印象が強かった。そう思わせるのはあま
りにも目が細いから。おもしろいのは大天使ガブリエルから神の子の懐妊
を告げられたマリアのリアクション、なんだか嫌々受け入れたようにみ
える。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その二

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     ファブリアーノの‘東方三博士の礼拝’(1423年)

 

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     アンジェリコの‘聖母戴冠’(1435年)

 

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     マザッチオの‘聖アンナと聖母子’(1424~25年)

 

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     ウッチェロの‘サン・ロマーノの戦い’(1456~60年)

初期ルネサンスに描かれた絵には画面全体に金の装飾が施されたものが多い。
その輝きが一際目立つのがファブリアーノ(1370~1427)の‘東方
三博士の礼拝’。

手前の三博士のなかで視線が一番向かう立ち姿の人物はモダンな香りのする
赤いソックスを履き黄金で埋め尽くされた衣装で身をつつんでいる。そして、
まわりは足の踏み場がないほど従者で一杯。そして、奥行きの背景にも長
い行列ができている。黄金の魔力は絶大でこの前にとどまる時間がついつい
長くなる。

サン・マルコ美で黄金の効果を使い荘厳なキリスト教の世界を表現した
アンジェリコ(1395~1455)の宗教画に数多く遭遇したが、ここに
ある‘聖母戴冠’も金箔をふんだんに塗り重ね聖母マリアが被昇天後の天上界
の輝きを荘厳に描いている。マリアの後ろから放射状にでる光は宇宙で星が
誕生するとき見られるジェットを連想させる。

フィレンツへ行くとマザッチオ(1401~1428)は済みマークがつけ
られるかもしれない。サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂では‘聖三位一体’、
サンタ・マリア・デル・カルミネ聖堂に足を運ぶと写実性豊かに描かれた
‘聖ペテロの生涯’、そしてウフィツィには堂々とした‘聖アンナと聖母子’と
対面する。とにかくマザッチオの絵は一見の価値がある。

ウッチェロ(1397~1475)は異才の画家。遠近法を徹底的に研究
し、これを戦いの絵で表現した。‘サン・ロマーノの戦い’はフィレンツェ軍
がシエナ軍に勝利した1432年の戦いを記念して描かれたもの。垂直に
立ったり地面に落ちた長槍の配置、槍の傾き加減や短縮法の馬をみると確
かに遠近法の描き方になっており、奥行きのある画面を生み出している。


モローの‘出現’と再会!

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     モローの‘出現’(1876年)

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     ‘一角獣’(1885年)

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     ‘エウロペの誘拐’(1868年)

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     ‘セイレーン’(19世紀)

4月1日からパナソニック汐留ミュージアムが‘パナソニック汐留美術館’
に変わった。これを知ったのは昨日、休館日が水曜だったか木曜だった
確認するためHPをみたら汐留美になっていた。新しい名前になって最初
の企画展は先週の4日からはじまった‘モロー展’(~6/23)。

パリのモロー美の作品を公開するのは14年ぶりとのことだが、今回は
なんとあの‘出現’がやってきた。これは見逃せない。だから、一ヶ月前
罹った帯状疱疹が治っておらず腹のあたりがチクチクするのに出かけて
きた。

モロー(1826~1898)の最も有名な‘出現’をみるのは28年ぶり。
パリではみたが、数回行われ皆勤した日本でのモロー展ではお目にかか
ってない。すると初来日?でもそうだったら‘日本初公開’とチラシに書く
はずだから、ずいぶん前にやって来たのかもしれない。

宙に浮かぶヨハネの首、この発想がスゴイ。殺されたヨハネが突然現れ、
‘サロメよ、私の首がそんなに欲しかったのか’とサロメを睨みつける。
だが、ヨハネに恋したサロメはたじろぐどころか、‘そうよヨハネ、私は
ね欲しいものは絶対手に入れる女なのよ!’と驚いたそぶりはみじんもみ
せない。まさに筋金入りのファムファタル(宿命の女)。

このエキゾチックで幻想的な絵をみたら、ロマン派の作家や音楽家は前
のめりになってとびつく。絵画の力を強く感じたエポック的な鑑賞体験
だった。再会できミューズに感謝!

ほかで目を惹いたのは再登場の‘一角獣’と‘エウロペの誘拐’、そして‘セイ
レーン’にも足がとまった。ラファエロにも‘一角獣を抱く貴婦人’(150
5年 ボルゲーゼ美)があるがタイトルの割には一角獣が目立たない。
これに比べればモローの絵には3頭も描かれ、しかも美形で衣装やキラ
キラ輝く飾り物をつけている女性と戯れているのだからファンタジック
な世界に誘い込まれる。何度見てもふわっとする。

三菱一号館美の‘ラファエロ前派の軌跡展’!

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ロセッティの‘魔性のヴィーナス’(1863~68年 ラッセル=コーツ美)

 

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ロセッティの‘廃墟の礼拝堂のガラハッド卿’(1859年 バーミンガム美)

 

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   バーン=ジョーンズの‘赦しの樹’(1882年 リヴァプール国立美)

 

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    ヒューズの‘クリスマス・キャロル’(1879年 バーミンガム美)

 

7年前、すばらしいバーン=ジョーンズ展を開催した三菱一号館美では
現在‘ラファエロ前派の軌跡展’(3/14~6/9)が行われている。入館し
てラスキンの絵が続くがこれには興味がないのでお目当ての作品をめざし
てどんどん進む。美術館のなかで最も広い部屋に着くとラファエロ前派の
大スター、ロセッティ(1828~1882)が何点も並んでいた。これ
は心が踊る。ここは‘ラファエロ前派ならお任せ下さい!’の美術館だから、
作品の見せ方が本当に上手い!

お目当てはチラシに大きく載っている‘魔性のヴィーナス’、じつはこの絵
はどこだったか記憶が戻ってこないのだが一度みている。でもそんなこと
はどうでもよくはじめて対面する気持ちでじっくりみた。ロセッティの描
く女性は歌麿のようにみな同じような顔立ち。このヴィーナスも目鼻立ち
の整った美形で顔全体の圧がとても強い。

そのため、みるのを途中でたじろいでしまうのだが、それでも画面に惹き
つけられるのはヴィーナスがまわりをバラやスイカズラで取り囲みまれ
その魔性が花の装飾性によって引き立てられているから。ヴィーナスは愛
や美人を意味する持ち物にも抜かりない。右手には黄金の矢、左手には
リンゴをもっている。ロセッティに乾杯!

初見の収穫はバーミンガム美から出品された‘廃墟の礼拝堂のガラハッド
卿’、これは初期の作品で以前手に入れたテート美が出版したロセッティ本
にしっかり載っている。こういうのを展示してくれると嬉しく反応する。

もう一点チラシで気になっていたのがラファエロ前派第二世代のバーン=
ジョーズ(1833~1898)が描いた‘赦しの樹’、このモチーフには
数点のヴァージョンがあるが、これははじめてお目にかかった。印象深い
のは互いに顔をみつめる裸の男女の異常とも思える体の密着度。そして、
じっとみているとミケランジェロ彫刻の筋肉人体が目の前をかすめる。
女性だって胸の下は脂肪を搾り取った筋肉がよくついている。

ハント、ブラウン、ミレイにはグッとくるのがなかったが、そのかわり
ヒューズ(1832~1915)が目を楽しませてくれた。思わず足がと
まったのが‘音楽会’とどうしてこんなに可愛くて綺麗なのとびっくりする
‘ブラッケン・ディーンのクリスマス・キャロルージェイムズ・リサート
家’。子どもたちの幸せが一番!

久しぶりの‘千住博展’!

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  ‘高野山金剛峰寺奉納襖絵 断崖図’(部分 2018年)

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  ‘高野山金剛峰寺奉納襖絵 瀧図’(部分 2018年)

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  ‘龍神Ⅰ(上)、龍神Ⅱ(下)’(2014年 軽井沢千住博美)

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  ‘四季瀧図(冬)’(1999年 軽井沢千住博美)

横浜そごうで開かれている‘千住博展’をみてきた。会期は明日14日まで、
すべりこみセーフだった。過去に2回くらい千住博の回顧展をみたが、関心
の的はいつも‘瀧図’、今回の目玉は昨年完成し高野山金剛峰寺に奉納され
る襖絵。‘茶の間’に‘断崖図’、‘囲炉裏の間’に‘瀧図’が夫々飾られることになっ
ている。

‘断崖図’は崖の部分だけをみるとひびや割れ目がとてもリアルに描かれて
いるので一瞬写真かなと思ってしまう。この断崖に覆いかぶさるように木々
が白く漂う霞のなかを下のほうに角度をつけてのびていく。深い山中でしか
出くわさない幽玄的な世界がここにある。

一方、お得意の‘瀧図’はいつものように小さなしぶきをとばし湯気が湧き立
つような繊細きわまる幾筋もの水がどこまでも横に広がる滝となって神秘的
に流れ落ちている。何作も仕上げている瀧図だが、どれも滝の形にはヴァリ
エーションの変化があり、この奉納‘瀧図’もすばらしい出来映え、息を呑ん
でみていた。千住の瀧図はある種のアクション・ペインテイング、もとに
ある好みの滝のイメージが高野山金剛峰寺の霊気を吹きこまれ見事に変奏
した。これまでとはちがったフォルムがある新鮮な瀧図に驚くばかり。

軽井沢にある千住博美はまだ縁がない。だから、‘龍神’と‘四季瀧図’とは
幸運なめぐり逢いだった。会場では青く輝く‘龍神’にテンションが一気に上
がった。2015年のヴェネツィアビエンナーㇾに出品され話題になったこ
とがよくわかる。そして、‘四季瀧図’では季節ごとに変わる滝の表情を深く
味わった。

 

期待の‘備前展’!

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     ‘三角花入’(桃山時代16~17世紀)

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     金重陶陽の‘緋襷茶盌’(1957年)

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     隠崎隆一の‘混淆花器’(2016年)

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     伊勢崎晃一朗の‘畝壺’(2017年)

東近美工芸館で開催されている‘備前―土と炎から生まれる造形美’(2/22
~5/6)をみてきた。以前広島にいたときクルマで備前焼の窯がある備前市
伊部へ出かけた。以来、釉薬を使わない備前焼の魅力にとりつかれている。
広島のデパートで金重陶陽以降の作家の作品をずらっと揃えた備前焼展をみ
たが、東京ではトータルで備前焼を楽しめる展覧会にでくわす機会がなかっ
た。ようやく実現したのは東近美、となると期待値はどうしても高くなる。

なかに入って展示室を進んでいくこれ以上望めないほど充実した作品
が並んでいた。流石、東近美!古備前の茶道具にいいのがたくさんあったが、
思わず足がとまったのが‘三角花入’、三角の形がユニークなので桃山陶器とか
織部展では定番のように出品される。備前焼の中興の祖である金重陶陽
(1896~1967)の緋襷(ひだすき)をぐっと感じさせる‘緋襷茶盌’
も名品。

今回人間国宝になっている作家をはじめ備前焼といえばこの人という面々は
全部登場している。まさに備前のオールスターが勢揃い。そのなかで伊部の
外からやってきた隠崎隆一(1950~)は現代アート風の備前を生み出し
た先駆者のひとり。金重陶陽の息子、金重晃介(1943~)の‘聖衣’
(1994年)が備前の貴公子がつくった備前アヴァン・ギャルドなら、
鬼才隠崎隆一の‘混淆花器’は自然と大地から生まれてきた原始の美という感
じ。魂を強く揺すぶられる。

これまで縁がなかった作家で大変魅了されたのは今年45歳の伊勢崎晃一朗
(1974~)。父親の伊勢崎淳(1936~)も大胆な造形で新しい備前
の形をつくってきたが、そのチャレンジ精神は晃一朗にもしっかり受け継が
れており圧倒的な存在感のある‘畝壺’に驚愕した。そして、矢部俊一
(1968~)のステルス戦闘機を連想させる切れ味鋭いフォルムが目を惹
く‘光風’にもぐさっとやられた。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その三

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     リッピの‘聖母子と二天使’(1457年)

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     カスターニョの‘女預言者クマ―ナ’(15世紀)

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   フランチェスカの‘ウルビーノ公・公妃の肖像’(1474年)

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   ポライウォーロの‘ヒュドラと戦うヘラクレス’(1460年)

ボッティチェリ(1445~1510)が若い頃描いた女性の絵は師匠の
描き方とよく似ている。その師匠リッピ(1406~1469)の最も
有名な作品がウフィツィにある‘聖母子と二天使’。手を合わせる聖母マリア
がとても魅力的なのはその清々しくシンプルな顔立ちが今イタリアの街を
歩いたらすぐに見つかりそうな現実感があるから。どうでもいいことだが、
散歩の途中によく出会うバレエのレッスン帰りの少女はこんなイメージ。

ミケランジェロのシスティーナ礼拝堂天井画を見上げると天地創造の物語
のほかに預言者や巫女のポーズにも目が釘づけになる。カスターニョ
(1421~1457)の有名人の肖像のなかにも女預言者が登場する。
その姿は預言者にはもったいないほど綺麗。お告げをもらったら即‘ハイ―、
わかりました!’と深々と頭を下げるのは間違いない。

ピエロ・デッラ・フランチェスカ(1416~1492)に関心をもち続
けているが、画家とのつきあいはこの横向きの肖像画‘ウルビーノ公
フェデリーゴ・ダ・モンテフェルトロ’と‘公妃バッティスタ・スフォルツァ’
からはじまった。目に焼きつくのはやはりモンテフェルトロの特徴のある
鼻。東洋人の大きくない鼻を見慣れているとこういう鼻が主張している
人物には唖然とする。

バルジェッロ美でも遭遇したポライウォーロ(1431~1498)は
彫刻だけでなく絵画でも同じように激しく戦うギリシャ神話の英雄ヘラク
レスを描いている。‘ヒュドラと戦うヘラクレス’と‘アンタイオスと戦うヘラ
クレス’はとても小品。これはメディチ宮のために描かれた大作の小さな
コピー。絵のサイズは小さいがヘラクレスの強靭な体と敵を倒すアクロ
バット的な姿勢を息を呑んでみてしまう。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その四

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     ボッティチェリの‘ヴィーナスの誕生’(1485年)

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     ‘春’(1482年)

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     ‘柘榴の聖母’(1487年)

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     ‘マニフィカトの聖母’(1482年)

ウフィツィで最も感激する絵というとボッティチェリ(1445~
1510)の‘ヴィーナスの誕生’と‘春’。はじめてフィレンツェを訪問し
この絵の前に立ったときは天にも昇る気持だった。美術の教科書に載って
いるあの‘ヴィーナス’を今見ているのだからワクワクする。この美術館の
主役はダ・ヴィンチでもラファエロでもなくこの2点をはじめ10数点が
ドーンと飾られているボッティチェリ!

この大きな2つの傑作に日本人が親近感を覚えるのはどちらにも花がたく
さんでてくるからかもしれない。‘ヴィーナスの誕生’では帆立貝に乗った
裸体のヴィーナスを風を吹いて上陸させようとしているゼフュロスが薔薇
の花を波の上にまき散らしている。そのピンク色とふぐ刺しを連想させる
白いさざ波が見事に溶け合っていい気持にさせてくれる。そして、これを
バックにして移動してきたアンニュイな顔立ちのヴィーナスがホーラに
マントをかけてもらおうとしている。風にたなびく長い金髪が美しい!

一方、‘春’は画面全体が花園によう。花の名前については隣の方にアシス
トしてもらわないとひとつ々特定できないが、とにかくスミレやヒナギク、
薔薇など花尽くし。研究者によると花の種類は190以上あり500本も
の植物が忠実に再現されているという。そこに役者たちが勢揃い。中央に
首をちょっと右に傾けたヴィーナス、その右に立っているのは花の女神
フローラ、花をばらまこうとする姿は成田山で豆まきをする白鵬とかぶる。

円形の画面に描かれた‘柘榴の聖母’と‘マニフィカトの聖母’にもぞっこん参
っている。ここで視線が向かうのが美少年の天使たち。‘柘榴’は6人、
‘マニフィカト’は5人。話が横にそれるが黒澤明監督の映画にはどの作品に
も必ず可愛い幼子とか美少年が登場する。それと同じことをボッティチェ
リも考えたのだろうか。

聖母をくらべると、‘マニフィカトの聖母’はびっくりするほど時代を突き
抜けており、まるで化粧品会社のCMにでてくる超美形のトップモデルを
みているよう。その聖母の頭の上に2人の天使が精緻な細い金の線で描か
れた宝冠をかかげている。頭がクラクラしてくる。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その五

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     ヴェロッキオの‘キリストの洗礼’(1472~75年)

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     ダ・ヴィンチの‘受胎告知’(1472~75年)

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     ラファエロの‘ひわの聖母’(1506~07年)

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     ミケランジェロの‘聖家族’(1503~04年)

ウフィツィで感激することが多いのはここがルネサンス絵画の殿堂だから。
ダ・ヴィンチ(1452~1519)はヴェロッキオ(1435~
1488)の工房の一人として部分的に描いた‘キリストの洗礼’と20歳頃
の作品‘受胎告知’が目を楽しませてくれる。

ヴェロッキオはドナテッロ亡き後のフィレンツェ彫刻界の大親方。大きな
工房を構え彫刻や壁画の注文を多く引き受けていた。‘キリストの洗礼’の見
どころは洗礼をうけるキリストとヨハネの川につかる足。そのまわりに流
れる水の渦ができ水中の足がリアルに透けてみえる。洗礼の儀式がこうい
う風に足の指先まで細かく描かれているのは珍しい。

そして、注目の的はダ・ヴィンチが描いた左端の天使。後の作品でダ・
ヴィンチの魅力のひとつとなる精緻に表現された頭の金髪のくるくる巻き。
こちら向きの天使の髪と較べると軍配は即ダ・ヴィンチに上がる。ヴェ
ロッキオはこの描き方をみて‘もう絵を描くのは止めるよ!’と言ったとか。
天才ダ・ヴィンチに追い越されたのだから本望かもしれない。

日本に12年前やって来た‘受胎告知’で異様な感じがするほどリアリテイが
あるのが大天使ガブリエルの羽、なんと自然史博物館に展示してある鳥の
標本の羽とそっくり。数多くある‘受胎告知’でこれほど羽の質感にこだわっ
た画家はほかにいない。はじめてみたときはこの羽で頭がいっぱいになり、
空気遠近法で描かれた遠くの風景には気が回らなかった。

ラファエロ(1483~1520)がある部屋は通りを挟んで反対側の
建物。数は自画像など7点くらい。もっとも有名なのは‘ひわの聖母’、昔一
度みたが、そのあとでかけたときは飾ってなかった。10年もの歳月をか
けた修復は2009年にようやく終わった。美しい色彩が蘇ったらしいの
でまたみる機会があれば癒しの聖母と対面したい。

ラファエロの隣の部屋にはミケランジェロ(1475~1564)の有名
な円形画‘聖家族’が展示されている。彫刻家の絵だから人体表現は動きが
あり立体的。3体の彫像をみているようでとくに上半身をひねって幼子
イエスを慈愛にあふれたまなざしでみつめる聖母に魅了される。システィ
―ナ礼拝堂の天井画にでてくる巫女の姿がふと思い出された。


美術館に乾杯! ウフィツィ美 その六

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 コジモの‘ペルセウスに救われるアンドロメダ’(1510年)

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  コレッジョの‘幼いキリストを礼拝する聖母’(1530年)

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  ブロンズィーノの‘ルクレツイア・パンチアテイキの肖像’(1540年)

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     パルミジャニーノの‘長い首の聖母’(1534年)

絵画の表現様式に時代の空気が大きく影響していることは間違いないにして
も、描き方やモチーフの扱いがそうした枠組みとは離れ独自の表現に没頭
する画家が共存する。ダ・ヴィンチより10年後に生まれたピエロ・デ・
コジモ(1461~1521)はそんなタイプの画家。一度見たら忘れられ
ないのが‘ペルセウスに救われるアンドロメダ’。

この絵の主役は異時同図法によって姿が2度描かれる英雄ペルセウスでも左
の岩の木にくくりつけられている美女アンドロメダでもなく、中央にいて
よだれをたらしている怪物。どういう種本から生み出したのかこの怪物、蛇
を思わせる尻尾とワニのような手足、そして口からは2本の鋭い牙がでて顔
はマントヒヒのよう。このグロテスクさなら現在のホラー映画からも声がか
かりそう。コジモは動物が好きだったのだろう。ほかの作品では画面全体が
動物園になったようなものがある。

ウフィツィにはルネサンスのあとに生まれたマニエリスム様式で名を残した
画家の絵がたくさんある。サルト、フィオレンティーノ、ポントルモは好み
でないのでいつのさっと通りすぎるが、ブロンズィーノ(1503~
1572)とパルミジャニーノ(1504~1540)にはどうしても足が
とまる。最も数が多いブロンズィーノは高貴な一族の肖像画の名手でコジ
モ1世の妻を洗練された技巧で描いている。これもいいのだが、ぐぐっと
惹きこまれるのが‘ルクレツィア・パンチアティキの肖像’。衣服や装飾品の
緻密な質感描写はアングルの女性画を連想させる。

一方、パルミジャニーノはマニエリスムたっぷりの‘長い首の聖母’はとても
いい。聖母の長い首ばかりみているとすぐ飽きてしまうが、おもしろいの
は左に密集して立っている天使たち。狭い空間に5人いるが、みな目が生き
生きしている。この脇役の描き方でいっぺんにこの画家のファンになった。

北イタリアの小さな町パルマで生涯をすごしたコレッジョ(1489~
1534)に関心を持ち続けている。これまで大きな感銘を受けたのはドレ
スデン美にある‘羊飼いの礼拝’とここの‘幼いキリストを礼拝する聖母’。バロ
ックを先取りするかのような光と影の扱い方が心を揺すぶる。そして、じっ
と見入ってしまうのが聖母の優しい顔。心底魅了されている。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その七

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     ベリーニの‘聖なる寓意’(1490~1500年)

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     ティツィアーノの‘フローラ’(1576年)

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     ティントレットの‘レダと白鳥’(1555年)

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     ヴェロネーゼの‘聖家族’(1554年)

ヴェネツィアに出かけアカデミア美や聖堂に足を運ぶと誰しもヴェネツィア
派の魅力の虜になる。そして、ヴェネツィアからそう遠くないミラノのブレ
ラ美でもティントレットらの傑作が目を楽しませてくれる。では、ウフィツ
ィではどうか。もちろん役者は揃っている。

ヴェネツィア派の大親方、ジョヴァンニ・ベリーニ(1434~1516)
が描いた‘聖なる寓意’は今だに解釈の定まらない謎の絵。静かな水辺の風景
に幼子イエスや聖母、聖人たちがほどよい間隔をあけて横に広がる形で描
かれている。中景にせり出した岩の崖の向こうに目をやると、ここにも白
い衣装を着た男女とロバを引く農民がいることに気づく。いくつもの物語
がありそうだが、それがどうつながっているかはわからない。

ティツィアーノ(1485~1576)は‘フローラ(花の女神)’と‘ウル
ビーノのヴィーナス’が有名。ともに日本にやって来た。ウフィツィはアメ
リカのボストン美同様日本との相性が非常によく所蔵する名画を気前よく
貸し出してくれる。だから、海外へ行く機会がなかなかつくれない若い
サラリーマン(とくに結婚していると)の人はじっと待っているとウフィ
ツィのルネサンス絵画をかなりの数お目にかかれるかもしれない。

ティントレット(1519~1594)の‘レダと白鳥’とヴェロネーゼ
(1528~1588)の‘聖家族と聖バルバラ、幼い洗礼者聖ヨハネ’も
2年前に行われたルネサンス展に出品された。ティントレットがダ・ヴィ
ンチの描いたモチーフに挑戦していたのは意外だった。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その八

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     ウェイデンの‘キリストの埋葬’(1450年)

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     デューラーの‘東方三博士の礼拝’(1504年)

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     クラーナハの‘アダムとエヴァ’(1528年)

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  ホルバインの‘リチャード・サウスウエル卿の肖像’(1536年)

ネーデルランドの画家、ウェイデン(1400~1464)は50歳の頃
イタリアを旅行しサンマルコ聖堂にあったフラ・アンジェリコの‘キリストの
埋葬’に影響され同じテーマを描いた。そのため、石の墓の前でキリストが
十字架のように両手を横に広げる構図になっている。でも、構図は似ていて
もウェイデンの絵では登場する人物は皆深い悲しみで意気消沈している様子
がありあり、これをみたらとついほろっと涙がでるにちがいない。

ドイツのデューラー(1471~1528)は自画像の模写など4点あるが、
印象に強く残っているのは博士のひとりが黒人になっている‘東方三博士の
礼拝’、こうしたエキゾチックな絵は珍しいが後のバロックの王、ルーベンス
も数点アフリカの黒人を描いている。また、父親の肖像も大変上手い。

人物の描き方にひとつの型をもっているのが古典のクラーナハ(1472~
1553)と近代のモディリアーニ(1884~1920)、どちらも縦に
長いのは同じだが、クラーナハの‘アダムとエヴァ’は横に幅があるのでぱっ
とみには‘ああー、いつもの裸体だな’と思ってしまう。これが少し変わって
くるのは視線がエヴァのほうにとどまった場合。小顔のぶん顔から下が異様
に長いというイメージが刻みこまれる。

イギリスのヘンリー八世の宮廷画家となったホルバイン(1497~
1543)は肖像画の名手、その内面性までとらえる精緻な描写は群を抜い
ている。口をぐっとつむんだ姿がいい感じの‘リチャード・サウスウェル卿
の肖像’はすばらしい出来映え。まるで目の前にいるよう。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その九

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     カラヴァッジョの‘バッカス’(1598年)

 

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 ワインのデカンタに描かれた自画像(‘美の巨人たち’今年1月の番組より)

 

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   ジェンティレスキの‘ユデイトとホロフェルネス’(1620年)

 

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    レーニの‘勝ち誇るダヴィデ’(1603~04年)

 

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     ホントホルストの‘キリストの降誕’(1620年)

 

ローマでたくさん楽しめるカラヴァッジョ(1571~1610)、フィレンツェではウフィツィに3点、ピッテイ美に1点ある。このなかで人気の絵はウフィツィの‘バッカス’、3年前西洋美で開催された回顧展にやって来た。バッカスはネタの多いギリシャ神話の欠かせないピースだから古来から描き継がれてきた。

ところが、カラヴァッジョの描くバッカスはイタリアの高校生がバッカス祭りのイベントに参加しているような感じ。この生感覚の人物をモデルに使い重苦しい宗教画をすっと入っていける風俗画に仕立てるところがカラヴァッジョ流。この絵をTV東京の‘美の巨人たち’が今年1月取り上げていた。ハイライトはワインのデカンタに密かに描き込まれた自画像。回顧展のときも話題になったが、高性能カメラがこちらに顔をむけるカラヴァッジョ(白い風船のようなものの右隣)を映し出していた。

カラヴァッジョの生みだした光と影の強烈なコントラストや画面いっぱいに描く手法などを模倣する画家たちが多く現れた。そうしたカラヴァッジェスキのなかでカラヴァッジョ以上に暴力性の強い絵を描いたのが女流画家のジェンティレスキ(1593~1652)、‘ユディトとホロフェルネス’は心臓がとまるほどドキッとする。光によって浮かび上がるユディトに首を斬られるホロフェルネス、鮮血が飛び散る生々しい描写はあまり長くはみられない。

ボローニャのカラッチ一族の画塾で修業したレーニ(1575~1642)は初期の頃カラヴァッジョの影響を受けた。‘勝ち誇るダヴィデ’はルーヴルにあるヴァリアントだが、びっくりするのがダヴィデが打倒したゴリアテの首のデカさ。ダヴィデは‘ゴリアテの大将さん、若造と思って甘く見るとこういうことになるんだからね、俺だって勇気を出して死ぬ気で戦ったんだ’とかなんとかつぶやいているのだろうか。

オランダのユトレヒト生まれのホントホルスト(1592~1566)はジェンティレスキ同様お気に入りのカラヴァッジェスキ。日本にも時々いい絵がくる。例えばエルミタージュの‘幼少期のキリスト’、そしてカラヴァッジョ展にウフィツィから出品された‘キリストの降誕’、この絵は現地でみてないので大きな収穫だった。

美術館に乾杯! ウフィツィ美 その十

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     エル・グレコの‘聖ヨハネと聖フランチェスコ’(17世紀)

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     ベラスケスの‘セビーリャの水売り’(1620年)

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     ゴヤの‘チンチョン伯爵夫人’(18世紀)

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     レンブラントの‘自画像’(17世紀)

ウフィツィにはスペイン絵画もあるが数は少なくほとんどは17世紀の作品。
エル・グレコ(1541~1614)は‘福音書記者聖ヨハネと聖フランチェ
スカ’と‘聖ペテロの嘆き’、プラドでエル・グレコを満喫し日本でも2度の大き
な回顧展を体験したのでグレコファンとしては満足度はいつも二重丸。
福音書記者の聖ヨハネが描かれるのは珍しいのでしっかりみた。

ベラスケス(1599~1660)が20歳のころ描いた‘セビーリャの水売
り’はカラヴァッジョが裸足で逃げだすほどの超リアルな風俗画。こんな絵が
描けるのだからベラスケスは早熟の天才。ロンドンのアプスリーハウスに
も別ヴァージョンがあるので、またイギリスを旅行することがあれば訪問す
ることにしている。

スペイン絵画のビッグ3の一角、ゴヤ(1746~1828)はいい肖像画
をたくさん描いた。政治家、判事、銀行家、貴族の夫人など。全身像の‘チン
チョン伯爵夫人’はみごたえ十分。ゴヤがおもしろいのはだいたいは気合を入
れて描くが、たまに手抜きがみえること。人物を事前に区別していたのだろ
う。

レンブラント(1606~1669)の若い時の自画像とお目にかかれたの
は想定外。ほかの初期のものと較べるとイケメンなのでちょっと戸惑う。

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