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Channel: いづつやの文化記号
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‘メアリー・エインズワース浮世絵コレクション’展!

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Img_37      鈴木春信の‘六玉川・調布の玉川’(1767年)

 

Img_0001_33      鳥文斎栄之の‘御殿山の花見’(1781~89年)

 

Img_0002_33      喜多川歌麿の‘見立唐人行列’(部分 1797~98年)

 

Img_0003_29      葛飾北斎の‘唐子遊び’(1790年)

例年のように海外の美術館が所蔵する質のいい浮世絵コレクションが里帰り
するが、今年はアメリカ人女性、メアリー・エインズワースさんが愛した
浮世絵(オハイオ州オーバリン大学アレン・メモリアル美蔵)が千葉市美に
やって来た。ここで4/13~5/26に開催されたあと、静岡市美(6/8
~7/28)、大阪市美(8/10~9/29)にも巡回する。

千葉市美は過去に鳥居清長展(2007年)、鈴木春信展(2017年)で
目を楽しませてくれたが、今回も200点のラインナップは圧巻! 
菱川師宣からはじまり、春信、清長、写楽、豊国、歌麿、北斎、広重、国芳
と名の知れた浮世絵師をほとんど網羅している。しかも、初見のものが多く
含まれ、色もよく残っているからたまらない。心を浮き浮きさせる一級の
浮世絵展に遭遇したことを腹の底から喜んでいる。

鈴木春信(1725~1770)の‘六玉川・調布の玉川’は川の流れの描写に
思わず足がとまる。方向をS字に曲げる水流に入り布を晒す娘の足が水面から
透けて見えるのがじつにいい。ほかにこれまでお目にかかったことのない
初期の作品など12点。見てのお楽しみ!鳥文斎栄之(1756~1829)
の‘御殿山の花見’はちょっと前に終わった上野の花見の再現。今の季節にもっ
てこいの絵柄。

喜多川歌麿(1753~1806)は9点でている。そのうち3枚続の横長
ワイド画面が2点、そしてサプライズはもっと長い7枚続の‘見立唐人行列’、
これは大収穫、歌麿に乾杯!葛飾北斎(1760~1849)の子ども絵
‘風流見立狂言 三本柱’と‘唐子遊び’を長くみていた。まるっこい男の子たち
は清長の描く子どもを連想させる。


美術館に乾杯! ミラノ アンブロジアーナ美

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     ミラノ アンブロジア―ナ美

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    カラヴァッジョの‘果物籠’(1597年)

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     ダ・ヴィンチの‘若い音楽家の肖像’(1490年)

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     ボッティチェリの‘天蓋の聖母’(1493年)

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     ラファエロの‘アテネの学堂のカルトン’(1510年)

イタリアのミラノは2度訪れた。はじめてのときは美術への関心度は人並み
だったのでダ・ヴィンチ(1452~1519)の‘最後の晩餐’をみただけ
で心が満腹状態。この絵よりもっと感動したのは街のシンボルであるミラノ
大聖堂、たくさんの細い槍が天に向かって伸びているという奇抜なフォルム
が胸に強く突き刺さった。

2006年にまたでかけたときは自由行動の時間を使って以前紹介したブレ
ラ美とアンブロジアーナ美を大急ぎで回った。中心部にあるアンブロジア
―ナ美で許された時間はわずか30分。展示室を駆け抜けてお目当ての絵を
みた。

ここのお宝はカラヴァッジョ(1571~1610)の静物画‘果物籠’、
小品だが果物のもつリアルな質感が抜群の描写力でとらえられている。目が
点になったのは梨と緑の葉についている水滴の表現、飛び散っている感じが
スゴイ。また、籠の網目の精緻な描写にも目が釘づけになった。この絵は
2010年ローマで開催されたカラヴァッジョ展にも出品された。2度も
みれたのは生涯の思い出。

ほかの作品で突進したのはダ・ヴィンチの‘若い音楽家の肖像’、ボッティチ
ェリ(1445~1510)の‘天蓋の聖母’、そして専用の部屋に飾られて
いるラファエロ(1483~1520)の‘アテネの学堂のためのカルトン
(下絵)’。慌ただしい鑑賞になったが必見リストに載せていた作品に会え
たので安堵の気分で館をあとした。

美術館に乾杯! サンタ・マリア・デレ・グラツィエ教会

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     サンタ・マリア・デレ・グラツィエ教会

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     ダ・ヴィンチの‘最後の晩餐’(1495~98年)

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     ‘最後の晩餐’(拡大)

今年のGWは10連休だから7~8日のヨーロッパツアーに出かける人が多
いかもしれない。イタリアだとこのくらいの日数があればヴェネツィア、
ミラノ、フィレンツェ、ローマ、ナポリまで全部行ける。2011年以降
イタリアはご無沙汰なので議論されることが多くなったオーバーツーリズム
の実態についてはっきりしたことは言えないが、過去の経験から現地の観光
地は大変な状況になっていることはある程度想像はできる。

これからヨーロッパはいいシーズンになるから、人気のあるイタリアには
世界中から観光客が押し寄せる。そうなるとツアーのなかに組み込まれてい
る美術館巡りに事前の予約が必要な場合、旅行会社は日程や時間のやりくり
が大変だろう。

例えば、ミラノ観光に入っているダ・ヴィンチ(1452~1519)の
‘最後の晩餐’の鑑賞はどうやって予約をとるのか、他人事ながら心配になっ
てくる。われわれが2006年4月に作品が展示してあるサンタ・マリア
・デレ・グラツィエ教会を訪問したときはすでに予約制(1回の入場は最高
25人まで、鑑賞時間は15分 今も変わらない?)になっていて、ツアー
参加者は何組かにわけて教会の中に入った。

‘最後の晩餐’は‘モナリザ’とともにダ・ヴィンチの代名詞となっている美術史
上の傑作だから、一度はみておきたい。ところが、この絵はフレスコ画では
ないため、修復がなされ色も部分的に蘇ったたとはいえ画面全体は絵具が
剥落しているところが多くある。だから、体の一部が欠けた彫像をみるとき
と同じ気分で同じくルネサンス絵画の傑作であるボッティチェリの‘ヴィーナ
スの誕生’をみたときのワクワク感とはまったくちがう。

この絵にはダ・ヴィンチのほかの絵にみられないすごい表現がある。それは
イエスが‘このなかに私を裏切る者がいる’と言ったあとの十二使徒のリアク
ションの描写。とくに激しい身振りで反応したのがイエスの右側にいる使徒
たち。すぐ隣の大ヤコブは両手を大きく広げ‘ええー、本当ですか!’と言わん
ばかり。そして、顔を出すトマスは人差し指を立てて‘裏切り者は一人です
か?’と問いかけようとしている。ダ・ヴィンチは使徒一人々の性格をみて
それにふさわしい動きと表情にして劇的に描いた。これがスゴイ!

美術館に乾杯! スフォルッア城市博

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     スフォルツァ城

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   ミケランジェロの‘ロンダニーニのピエタ’(1564年)

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     マンテーニャの‘聖母と聖人’(1497年)

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     フォッパの‘聖母子’(1460年)

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     ロットの‘若者の肖像’(1524~27年)

ミラノ観光の定番スポットになっているのが1450年に城兼要塞として建
てられたスフォルツァ城(入城は無料)、外観はいかめしいイメージだが中
にある市立博物館に行くとだんだん美術品鑑賞モードになる。

ここでのお目当てはミケランジェロ(1475~1564)が88歳で亡く
なる6日前までノミをふるい続けた‘ロンダニーニのピエタ’、84歳のとき
彫りはじめたが、顔は完成せず荒々しいノミのあとが残っている。じっとな
がめてミケランジェロがつくったピエタ3部作を全部みたなと感慨にふけっ
ていた。

絵画の展示ではヴェネツィア派やミラノに近い都市で活躍した画家の絵が多
くあった。足がとまったのはマンテーニャ(1430~1505)の‘聖母と
聖人’、お馴染みのモチーフの宗教画だが、ほかとはちょっとちがう描き方に
気づく。それは聖母マリアのまわりにどどっといる天地たち。描かれている
のは顔だけ。まるで左右の木になる果物とコラボするように聖母を崇めて
いる。

この天使の福々しい丸顔と重なるのがフォッパ(1427~1515)の
‘聖母子’、この画家の作品を見る機会が少なく、ブレラ以外の美術館でみた
という記憶がない。ブレラの聖母子にも魅了されたが、ここの絵もいい。

ミケランジェロのピエタのはかにもう一点インパクトが大きかった絵があっ
た。ヴェネツィ生まれだがいろんなところを旅して絵を描いたロレンツォ
・ロット(1480~1556)の‘若者の肖像’、この若者の視線は強烈。
鼻筋の通った横顔は内面性が強くうかがわれ、近づきがたい空気が流れて
いる。

美術館に乾杯! ヴェネツィア カ・ドーロ

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     カ・ドーロ(黄金の館)のファサード

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     マンテーニャの‘聖セバスティアーノ’(15世紀)

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     ティツィアーノの‘ヴィーナス’(1560年)

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     ティントレットの‘老貴族の肖像’(16世紀)

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     ヴァン・ダイクの‘伯爵の肖像’(17世紀)

現在、ヴェネツィアは観光客があまりに多く来すぎるため住民の生活環境が
相当悪化しているようだ。報道によると大型客船は寄港してくれるなとい
う反対運動までおきているとか。この街には旅人の心をとらえる豊かすぎる
観光資源があるから観光客は止められない。でも、オーバーツーリズムの
影響はもう看過できないところまできている。ふたつをどうバランスさせる
か。知恵の出しどころである。

リアルト橋をすぎ大きくS地形にくねる大運河をサンタ・ルチア駅に向かっ
て進むと運河に面した館がみえてくる。1434年に創建されたときファ
サードが青、白、黒、黄金に彩色されていたことから、カ・ドーロ(黄金の
館)と呼ばれている。ここは1916年からフランケッティ美術館として
公開されており、予想以上にいい絵が姿を現わしてくれた。

圧倒的な迫力で存在感をみせつけるのがマンテーニャ(1431~
1506)の‘聖セバスティアーノ’、いくつかみたこの聖人の絵のなかでは
無数の矢の刺さり方が一番暴力的でその痛みたるや半端ではなさそう。日本
で言えば仁王立ちする弁慶といったところ。

ヴェネツィア派の巨匠たちもしっかり飾ってある。ティツィアーノ
(1485~1576)の‘ヴィーナス’はワシントンのナショナル・ギャラ
リーが所蔵する‘鏡を見ているヴィーナス’の変種のような作品。ヴィーナス
の白い肌の描写に魅了される。

動きのある人物表現と対称性をちょっと外す画面構成が特徴のティントレッ
ト(1519~1594)は肖像画も多く手がけている。‘老貴族の肖像’は
暗い背景に黒の衣服をまとい生き生きとした表情をみせる老人が浮き上がっ
ている。一番いい肖像画かもしれない。また、ヴァン・ダイク(1599~
1641)の‘伯爵の肖像’も長くみていた。

美術館に乾杯! サンタマリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ教会

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     サンタマリア・グロリオーザ・デイ・フラーリ教会

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      ティツィアーノの‘聖母被昇天’(1516~18年)

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     本堂に飾られた‘聖母被昇天’

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      ティツィアーノの‘ペーザロ家の祭壇画’(1526年)

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     ベリーニの‘聖母と諸聖人’(1488年)

ヴェネツィアはサン・マルコ広場あたりをウロウロしているぶんには呑気な
観光客でいられるのだが、人が大勢集まる人気のスポット、リアルト橋をわ
たった地区に足を踏み入れると目的地にうまく行けるだろうかと心配になっ
てくる。とにかく細い道が入り組んでいるのでガイドブックをみただけでは
どこを曲がってどう進んでいいのかすぐつかめない。めざすサンタマリア・
グロリオーザ・デイ・フラーリ教会にたどり着くのに苦労した。

ツアーの行程で自由時間になると頭のなかは念願のフラーリ教会でいっぱ
い。ここにはお目当てのティツィアーノ(1485~1576)の出世作が
あるのである。それは画家が2年を費やして描いた‘聖母被昇天’、赤い衣装
をまとい天に昇っていく聖母の顔はとびっきりの美形、まるで化粧品会社の
CMに登場するモデルのよう。このモチーフで描かれた絵はたくさんあるが、
これほど生感覚の美しい女性が聖母になっているものはほかにない。
200%KOされた。ティツィアーノに乾杯!

ここにはもう1点ティツィアーノがある。同じタイプの‘ペーザロ家の祭壇
画’、インパクトがありすぎる背後の大きな2本の円柱に目がいくためどうも
聖母子の印象が薄く、真ん中にいる聖ペテロと右下でこちらをじっとみて
いる寄進者の少年ばかりが気になる。ティツィアーノの絵は同時代に描かれ
たほかの画家のものとちがって人物にとてもリアリティがある。すぐにでも
カラヴァッジョ(1571~1610)につながる感じ。同じことはジョル
ジョーネ(1476~1510)にもいえる。

3番目のサプライズはヴェネツィア派の大親方ベリーニ(1434~
1516)の聖母と諸聖人’、みどころは中央の奥行きのある空間に座ってい
る品のいい聖母が膝の上に立っている幼児キリストを優しく支えているとこ
ろ。そして、目を下にやると可愛い2人の天使がリュートと笛を奏でてい
る。これは癒される。

美術館に乾杯! サン・ロッコ同信会館

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Img_0006      ルネサンス様式のファサードをもつサン・ロッコ同信会館

 

Img_43      ティントレットの‘磔刑’(1565年)

 

Img_0001_39      ‘岩から水を湧き出させるモーセ’(1575~77年)

 

Img_0005_4      ‘キリストの昇天’(1575~77年)

 

Img_0003_35      ‘受胎告知’(1582~87年)

 

Img_0002_39      ティツィアーノの‘受胎告知’(1540年)

イタリアルネサンス芸術はフィレンツェの美術館や教会をまわると感動袋が
パンパンに膨れ上がるほど堪能できるが、ほかの街にもサプライズの絵画が
数多く存在している。とくにヴェネツィアにまで足をのばすと二つ目の感動
袋も大きくなることは請け合い。でも、ヴェネツィア派の画家については
最初戸惑いがある。ティツィアーノ(1485~1576)とティントレッ
ト(1519~1594)はよく似た名前なのでどっちの作品か曖昧なとこ
ろがあった。

それがだいたい解消されたのがアカデミア美に行き、ティツィアーノの‘聖母
被昇天’が飾ってあるフラーリ教会とすぐ近くにあるサン・ロッコ同信会館
をまわったとき。サン・ロッコでは内部の壁と天井がティントレットの巨大
な絵画で埋め尽くされている。画家は晩年の23年をこの同信会の絵画に
捧げた。その数なんと67点。これほど多くティントレットをみたら描き方
の特徴や魅力がだいぶのみこめてくる。

描かれているのはモーセの物語やキリストの犠牲と復活、そのなかで最も
圧倒されるのは横が12mもある大作、‘磔刑’、画面のどこをみても人々が
激しく動いている感じがするので映画でクライマックスシーンをみている
よう。言葉を失い、興奮してみていた。この絵は一生の思い出になる。

天井画の‘岩から水を湧き出させるモーセ’は大きなカーブをつくって下に落
ちていく水の間にモーセを描く構図が憎いほどよくできている。モーセ
マジックが事態を好転させ水を渇望していた民はこれで一息つける。男も
女も必死に水の落ちる軌道に壺をもっていき満杯にしている。

‘キリストの昇天’はこれぞティントレット!キリストに随伴する天使たちの姿はまるで大宇宙で船外活動をする宇宙飛行士。手を大きく広げ横や斜めの方向に体をよじりながら進む光景はほかの絵では決してみられない。こういう動きがあると視線は昇天するキリストより天使のほうにむかう。脇役が主役を食ってしまった。

ここには2点の‘受胎告知’が展示してある。ともに大天使ガブリエルは宙を舞っているが、ティントレットの描く大天使はもっとダイナミックの体を曲げさらに幼い天使たちをたくさん引き連れている。その勢いのあるこどもの群れに目が点になる。これにはマリアもびっくりしただろう。‘ど、どうしたの!みなさん、何事ですか?’  

企画力が光る‘北斎のなりわい大図鑑’!

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Img_0001_40      葛飾北斎の‘蛤売り図’ 蛤売り

 

Img_0003_36      ‘今戸川’ 今戸焼職人

 

Img_0002_40      ‘富嶽三十六景 尾州不二見原’ 桶屋

 

Img_44      ‘五十三次江都の往かい大津’ 大津絵師

久しぶりに両国にあるすみだ北斎美へ行ってきた。背中を押してもらったの
はいつもお世話になっているみどりがめさん。今開催中の‘北斎のなりわい
大図鑑’(4/23~6/7)に新発見の北斎(1760~1849)の肉筆画
‘蛤売り図’が展示されていることを教えてもらった。これは見逃せない!
展示は前期(4/23~5/19)のみなので普通は出歩かない連休中にもか
かわらず出動した。

今回の展覧会は江戸の人々のなりわいが北斎と弟子たちにどう描かれたかを
みせてくれている。すばらしい企画力で拍手々!浮世絵は風俗画の最たる
ものだから、みててこれほど楽しいことはない。まずはお目当ての‘蛤売り
図’をじっくりみた。描かれたのは寛政9~10年(1797~98)、驚い
たのは籠に入れている蛤が白の胡粉を使って描かれ輝いていること。日本画
をみるときはいつもこの胡粉に注目しているが、北斎の肉筆でも白のアクセ
ントが印象的だった。

一休みしている棒手振りの蛤売りが商売するのは9月、十五夜に蛤の吸い物
を食べる風習があるため毎晩売り歩いた。美味しい吸い物だったにちがい
ない。食物の話をすると元気になる。興味深いのがあった。‘今戸川’に描かれ
ている今戸焼職人。江戸のころから今川焼があったのは知らなかった。わが
家の秋から冬にかけの美味しいもの定番は横浜そごうで売ってる‘御座候の
今川焼’、安くて餡がたっぷり入っているので最高。

ほかにもいろいろな生業で生計をたてている人たちが登場する。みてのお楽
しみ。思わず足がとまったのがとても見慣れている傑作‘富嶽三十六景 尾州
不二見原’にでてくる桶屋職人。大きな丸い桶の圧倒的なリアリティ、丸の
なかに描かれた富士山は完全に食われている感じ。この職人の仕事ぶりには
流石の富士山もお手上げだろう。

大津絵は当地のお土産やお守りとして人気があったらしい。以前、日本民藝
館で大津絵を夢中になってみたので‘五十三次江都の往かい大津’にも敏感に
反応する。こんな風にして絵師たちは忙しく描いていたのだ。後ろの女は
‘ちょいと、次は人気の鬼にするかい。在庫が少なくなったから’なんて言っ
てる?


池大雅の‘富士十二景図’!

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   池大雅の‘富士十二景図 九月緑陰雑紅’(18世紀)

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      ‘富士十二景図 五月田植え’(18世紀)

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     黒田清輝の‘婦人像(厨房)’(1892年)

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     中村岳陵の‘仏誕’(1912年)

長らくご無沙汰していた‘藝大コレクション展’(第1期4/6~5/6)
を滑り込みセーフでみてきた。どうしても連休中に行く必要があったのは、
これもみどりがめさんからの情報で池大雅(1723~1776)の‘富士
十二景図’が12幅全部展示(1期のみ)されているため。

じつはこの絵は昨年春、京博で開催された池大雅展でみたが、‘九月’が欠け
飾られていたのは11幅。その行方不明だった‘九月’がその後偶然発見され
て藝大コレクションに加わった。芸大はこれで12幅のうち8幅所蔵。で、
滴翠美蔵の4点にもきてもらい嬉しい全点展示となった。

‘九月 緑陰雑紅’は修復されたためほかの月にみられる雨だれを思わせるに
じみが消えている。そのため、下の鮮やかな紅葉の印象を強く残しながら
だんだんと視線を上にあげていき雄大な富士山にいたるという構図にうっ
とりしてしまう。大雅らしいすばらしい風景画。ちなみに‘五月’は田植えの
光景、ここでも北斎の蛤同様、田植えをする農夫たちの衣服が白の胡粉を
使って描かれている。

このコレクション展は1期(4/6~5/6)と2期(5/14~6/16)で
作品が全部入れ替わる。その出品作の概要が記された小冊子(無料)をみ
ると、2期には松岡映丘の‘伊香保の沼’や山口蓬春の‘市場’などが登場するよ
うだ。そして1期にでている洋画などは通期展示なので2期でもみられる。

池大雅に心を奪われたあとほかの絵もぐるっとみたが、ぐっときたのは
最初に飾ってある黒田清輝(1866~1924)の‘婦人像(厨房)’、い
つも感心させられるのは本場フランスの画家にも決して負けてない筆使い。
名前を隠してヨーロッパ人にみせたら皆フランス人の作品だというにちがい
ない。東博にある‘読書’とともに一級の油絵である。

中村岳陵(1890~1924)の‘仏誕’をみるのは2度目。これまでコレ
クション展でこの大作には遭遇しなかった。岳陵は若い頃、こうした仏教画
や源氏絵巻図風の絵を描いていた。その後、スッキリしたモダンな作品に
作風を変えていくが、才能がありすぎるのでなんでも描けてしまう。

ドガの‘リハーサル’!

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     ドガの‘リハーサル’(1874年)

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     ゴッホの‘画商リード’(1887年)

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     ブーダンの‘ドーヴィル、波止場’(1891年)

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     クールベの‘オルド嬢’(1865年)

渋谷のBunkamuraで開幕した‘印象派への旅 海運王の夢ーバレル・
コレクション’(4/27~6/30)を早速見た。展覧会の情報が入ってきた
ときは‘あのドガの絵が来るのか!’と心が弾んだ。その絵は‘リハーサル’、
ドガの画集には必ず載っている有名な絵。だから、この1枚をみるために出か
けた。

スコットランドのグラスゴー出身で海運業で財をなしたバレルがスコットラ
ンドの画家たちの作品と同様に熱をあげたのが印象派。そのなかで一際輝い
ているのがドガ(1834~1917)の‘リハーサル’、何枚も描かれたバレ
エの稽古の場面なのですっと画面に入っていける。ぶらっと稽古場に寄りこ
ういう一番いい場所で踊り子たちの姿がみれるとバレエがぐっと身近になる。

構図がとてもいい。奥の方には右にいる先生がみつめるなか右足立ちで体を
前に倒す動きを繰り返す少女たちがおり、手前には休憩中の子が椅子に腰掛
けている。ふたつのグループの間に大きなスペースをつくるところがドガ流
。さらにスゴイのは左に描かれたらせん階段をよくみると上のほうに足がみ
え下へ降りてきている。こういうトリミングの仕方は浮世絵を研究した成果。
大収穫だった!

この絵1点買いだったが、ゴッホ(1853~1890)の‘画商リード’が
オマケでついてきた。ほかは絵の完成度・魅力の点からいうと正直アベレー
ジクラス。あれれ、こんなもんという感じ。Bunkamuraが行う企画展として
は物足りないが、たまには1点だけで勘弁してくださいということもある
だろう。


ピーター・ドラッカーの水墨画コレクション!

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     雪村の‘月夜独釣図’(16世紀)

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     海北友松の‘翎毛禽獣図 猿図’(17世紀)

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     尾形光琳の‘柳鷺図’(1704年頃)

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     伊藤若冲の‘梅月鶴亀図’(1795年)

4/24、千葉市美で‘メアリー・エインズワース 浮世絵コレクション’
(4/13~5/26)を楽しんだとき、続けて同時開催されていた‘ピーター
・ドラッカーコレクション 水墨画名品展’もみた。はじめはさらっとみる
つもりだったが、進んでいくうちに‘ええー、ドラッカーはこんないい水墨画
をもっていたの!’と思うようになり、ちょっとあたふたした。

何年か前、ここでドラッカーのコレクションが披露されたのはかすかに覚え
ているが、内容がわからなかったのでそう気にもとめなかった。チラシによ
るとその展覧会は2015年に行われていた。そして、その後コレクション
は日本の企業によって購入されたが、それが千葉市に寄託されることになっ
たという。今回はその中から50点が展示されている。

見終わって図録を手に入れようと思ったが、残念ながら2015年のとき
全部売れ切れてもう一冊も残ってなかった。これは迂闊だった。こんないい
絵が揃っているのなら出かけるべきだった。図録が手に入らないので紹介し
ようにもチラシの画像しかないのでアップするのを断念した。

ところが、5/1美術館巡りをしたあと神田の古本屋に寄ったら、なんとこ
の図録があった!価格は2500円の倍になっていたが、すぐ買った。
そして、あらためてセレンディピティ(思わぬ幸運に偶然出会う能力)があ
るなと思った。

宝物を手に入れた気分だが、ここには111点が掲載されている。今月の
26日まで展示されているのはその半分ほど。このなかにもびっくりする絵
が続々登場する。4点に絞るのに苦労したが、雪村(1492~1577)、
海北友松(1533~1615)、尾形光琳(1658~1716)、伊藤
若冲(1716~1800)を選んだ。

とくに光琳の‘柳鷺図’と若冲の‘梅月鶴亀図’はこれまであった回顧展にでたこ
とがないので嬉しくてたまらない。ほかにも蕭白、蕪村、白隠、谷文晁のい
いのがある。みてのお楽しみ!

美術館に乾杯! ペギー・グッゲンハイム美 その一

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     ペギー・グッゲンハイム美

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     モディリアーニの‘ハヴィランドの肖像’(1914年)

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     セヴェリーノの‘青い服の踊り子’(1912年)

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     メッツジンガーの‘自転車レース’(1912年)

ヴェネツィアではティツィアーノやティントレットら錚々たるヴェネツィア
派の作品とお目にかかれるだけでなく現代絵画も存分に楽しめる。ひとつが
アカデミア美のすぐ近くにあるペギー・グッゲンハイム美で、もうひとつは
まだ縁がないカ・ドーロの斜め前にある近代美。前回、クリムトがある近代
美を忘れるという大ポカをしてしまった。その悔いの痛みをずっと引きずっ
ている。

ペギー・グッゲンハイム美は大運河に面するこじんまりとした邸宅美。
コレクターのペギー・グッゲンハイム(1898~1979)が住んでいた
邸が現代美術を展示する美術館になった。いくつかある部屋をまわっていて
思わず足がとまるのがモディリアーニ(1884~1920)の‘フランク
・バーティー・ハヴィランドの肖像’、ハヴィランドは裕福なコレクター、
この絵が描かれたのは彫刻を諦めて絵画で生きていく覚悟を決めた直後の頃。
点描のような色使いがとても斬新でモデルの内面性がよくでている。

ここにはイタリア未来派の作品がしっかり揃っている。とくに目を惹くのが
セヴェリーノ(1883~1966)の‘青い服の踊り子’、上のほうをじっ
とみているとピカソのキュビスムを連想させる女性の顔がとらえられる。
未来派はスピードの表現が真骨頂なので日本の千手観音像のように踊り子の
手が2,3本動いている。これはおもしろい!

メッツジンガーの‘自転車レースのトラック’は未来派らしいモチーフ。バッラ
(1871~1958)は犬の足や楕円をぐるぐる回しダイナミズムを印象
づけ、メッツジンガーは競技自転車の車輪を選手がフル回転させゴールをめ
ざす場面をどアップで描いた。


美術館に乾杯! ペギー・グッゲンハイム美 その二

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     エルンストの‘花嫁の着付け’(1940年)

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     ミロの‘オランダの室内Ⅱ’(1928年)

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     ダリの‘液状の望みの誕生’(1932年)

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     タンギーの‘宝石ケースのなかの太陽’(1937年)

元号が令和に変わった5/1に美術館をまわったとき、東京都美で行われてい
るクリムト展をチラッと覗いてみたら大勢の人がいた。流石、クリムトの
人気は高い。同じタイミングで国立新美でも‘ウイーン・モダン’をテーマにク
リムト、シーレが展示されているので今年はクリムトイヤーかもしれない。
5/23に出かけることにしている。

昨年はムンクにスポットがあたり、今年はクリムトに注目が集まる。そうな
ると、気が早いが来年のオリンピックイヤーは何をもってくるのか。確たる
情報は全然ないが、また期待したいのがシュルレアリスム展。展覧会があろ
ううがなかろうがシュルレアリスムは印象派同様、ライフワーク。だから、
ミロやダリ、マグリットらの絵はときどき画集や図録を引っ張り出しみて
いる。

ペギー女史はシュルレアリスムが好きだったからいい絵が揃っている。その
なかで怪しげな磁力を強く放射しているのがエルンスト(1891~
1976)の‘花嫁の着付け’、絵の前に立った瞬間度肝を抜かれた。一体こ
の花嫁は何者か、目の覚める赤いマントをまとった猛禽がじっとこちらをみ
ているが、よくみるとマントの間に女性の裸婦がみえる。そして、花嫁の横
には槍をもった鶴人間みたいな怪物が。静かで美しい鶴や白鳥のイメージを
こういういかつい兵士に変容してしまうエルンストのシュール力は半端では
ない。

ミロ(1893~1983)のユーモラスな‘オランダの室内Ⅱ’も忘れられ
ない一枚。この絵のもとになっているのはミロがオランダを訪問したときみ
たヤン・スターンの風俗画、‘猫のダンスの練習’、白い風船みたいなものが
あるのがテーブルで手前の黄色の体をしたものが跳びはねている猫。左の顎
と額が出っぱる男の横顔がおもしろい。こういう楽しい絵を描いてくれるか
らミロはやめられない。どこか大規模な回顧展をやってくれぇー!

作品についたタイトルが意味不明?なのはシュルレアリスム絵画では当たり
前みたいなものだが、ダリ(1904~1989)の‘液状の望みの誕生’と
タンギー(1900~1955)の‘宝石ケースのなかの太陽’についても、
描かれた内容をいくらみてもその意味するところがタイトルとしっくり結び
つかない。シュルレアリスムは謎につつまれた夢の世界の表現や不思議な
モチーフの組み合わせに心がどれだけ揺すぶられるかで価値が決まる。

美術館に乾杯! ペギー・グッゲンハイム美 その三

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     デ・キリコの‘詩人の郷愁’(1914年)

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     マグリットの‘光の帝国’(1954年)

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     ブローネルの‘ショックの意識’(1951年)

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     ボッチョーニの‘疾走する馬と家の躍動’(1915年)

デ・キリコ(1888~1978)のイメージをつくった絵がペギー・グッ
ゲンハイムにある。‘詩人の郷愁’はポンピドー・センターにある‘ギョーム・
アポリネールの肖像’と対をなす作品。すごくカッコいいなと思うのはサン
グラスをかけた古代の胸像、はじめてこれをみたときは映画‘ゴッドファー
ザー’のイメージと重なった。キュビスムや未来派の擁護者となった詩人アポ
リネールはデ・キリコも絶賛したので、画家は詩人を古代ギリシャの勇士に
似せて描き持ち上げたのかもしれない。

シュルレアリストのマグリット(1898~1967)はデ・キリコの形而
上絵画に強い影響を受けた。デ・キリコが見慣れた街を建物や人物がつくる
長い影を描き静謐でどこか不思議な世界に変質させたのに対し、マグリット
は謎めいた要素を薄くし、意表を突くモチーフの組み合わせのおもしろさを
表出した。代表作の‘光の帝国’は空の白い雲が昼間そのものでこれとどっ
ぷり夜の暗闇につつまれた邸が一緒に描かれているのでハッとする。でも、
同時になぜこれがシュールなの?という感じもする。夕暮れ時はこんな光景
によくでくわすことがあるからである。

ブローネル(1903~1966)に開眼したのはパリ市立近代美でそのシ
ュールな絵画や彫刻をみたとき。‘ショックの意識’にみられる人物や鳥などの
平板なフォルムは先史人類が洞窟の壁に描き残した馬や牛や狩人を思い起こ
させる。また、小さいこどものお絵かきでも同じような絵ができあがりそう。

絵画だけでなく彫刻やオブジェも制作した未来派のボッチョーニ(1882
~1916)にはバッラ、セヴェリーノ同様、深い思い入れがある。ここで
は絵画5点と彫刻2点が目を楽しませてくれた。‘疾走する馬と家の躍動’は
どの部分が馬でどこが家かはっきりつかめないが、突起物の形から十分にス
ピード感は感じられる。

美術館に乾杯! ペギー・グッゲンハイム美 その四

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Img_0001_48      モンドリアンの‘コンポジション’(1939年)

 

Img_0003_43      ドゥ―スブルフの‘反=構成 Ⅷ’(1926年)

 

Img_51      ドローネーの‘いっせいに開かれた窓’(1912年)

 

Img_0002_47      カンディンスキーの‘赤い染みのある風景No.2’(1913年)

今週末飲み会に集まる人たちの近況報告をみていたら、秋にギャラリー蔵で
水彩画の個展を行うという人がいた。親しい友人も何年か前銀座の画廊で
それまでに描きためた作品を何点も披露している。そういう絵をみるたびに
世の中にはプロの画家でなくても鋭い感性と豊かな技量をもっている芸術家
がたくさんいるなと思う。

そういう絵に刺激されたからといって自分も描いてみるかという気持ちには
とてもなれない。身の程をわきまえている。でも、抽象絵画なら試しに白い
紙をもってきて多色サインペンで円や三角形、四角形を気ままに並べてみ
ようかという衝動にかられることがある。

このように素人を妄想させるのはモンドリアン(1872~1944)の絵
のせい。1939年に描かれた‘コンポジション’を一度コピーしてみたら現代
ア―ティストの一歩が踏み出せるのではないかとつい錯覚してしまう。ちょ
っと太めの黒い線が水平と垂直に無造作に引かれている。色は右下にちょこ
っと赤がみえるだけ。だから、この赤をほかの場所に移してみるのもおもし
ろいかもしれないと勝手にイメージを膨らます。でも、すぐにそうすれば
作品がどんどん崩れていくことは想像できる。

ドゥ―スブルフ(1883~1931)ははじめモンドリアンと行動を共
にしていたが、次第に水平線と垂直線のみの静的な抽象画より動きを表現し
たくて別の道を歩んだ。多用したのは45度に傾斜した直線、これにより
画面は様々な向きをした三角形で構成されグンと運動するイメージがでて
きた。

抽象絵画という新しい地平が切り開かれるといろんな形が加速度的に生まれ
てくる。フランスのドローネー(1885~1941)は光と色彩を追及し
た。‘いっせいに開かれた窓’は分析的キュビスムから刺激を受けた作品。
画家には窓から見える建物の風景はこんな平面的な色彩により断片化された
形にみえたのだろう。

カンディンスキー(1886~1944)の初期の抽象絵画はところどころ
にモチーフの残像がでてくる。‘赤い染みのある風景No.2’は音楽を表現した
カンディスキーならではの非具象的な表現に移行するための準備段階の作品。
明らかに山々が赤に染まる光景をぼやけたまま写し取っている。


美術館に乾杯! ペギー・グッゲンハイム美 その五

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     ポロックの‘月の女’(1942年)

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     ロスコの‘犠牲’(1946年)

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     ジャコメッティの‘立っている女’(1947年)

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     マリーニの‘町の天使’(1948年)

目利きのコレクターは同時にパトロンでもあり、才能に恵まれたア―ティス
トを世の中に送り出す役目も果たす。ペギー女史は1942年ニューヨーク
にヨーロッパで収集した現代アートのコレクションを披露する‘今世紀美術画
廊’を開設し、まだ売れてないアメリカやヨーロッパの作家たちの展覧会を行
った。後にビッグネームになるマザーウェル、ロスコ、ポロックらである。

とくにポロック(1912~1970)がこのギャラリーの星で1943年
にはじめての個展が開かれた。‘月の女’はその頃描かれた作品。この美術館を
訪れたとき事前につくった必見リストの一番最初に載せていた。ポロックの
初期の作品では同じ年に描かれた‘男と女’(フィラデルフィア美)とともに絵
の完成度では群を抜いていい。月をすぐ連想する黒い三ケ月の頭がとても印
象的でさらにミロやピカソの画風も顔をだすため物語がいろいろ浮かぶ。

ロスコ(1903~1970)の水彩画‘犠牲’はシュルレアリスムの影響が色
濃く残っている。ロスコも1944年に最初の個展をペギーのギャラリーで
行っており、これはその2年後に描かれた。ダリのような神秘的なシュルレ
アリスムとは違い、無邪気なミロを連想させる軽い感じのシュールさが味わ
い深い。

ジャコメッティ(1901~1980)の‘立っている女’はペギーのために
特別に鋳造したもの。モディリアーニ同様、ジャコメッティの彫刻は表現様
式が強烈に立ち上がっている。その特徴はやせ細った人物像。なかでも女性
像はべろべろ飴とか浜松のお土産のうなぎパイのようにペタッとしている。
そして、視線を下にやると俄然立体的で異様に大きい足が目に入る。だから、
安定感がすごくいい。この像には不思議な魅力がある。

中庭にはオブジェなどが置いてあるが、インパクトが最もあるのがマリーノ
・マリーニ(1901~1980)の‘町の天使’。馬に乗った天使が天を見
上げ手を横に広げる形が胸に突き刺さる。具象の彫刻で水平と垂直のライン
がこれほど力強く感じられる作品はあまりお目にかからない。八重洲駅口に
あるブリジストンにはこれとよく似た‘騎士’がある。ところで、新ブリジス
トン美はいつオープンする?

美術館に乾杯! サンタ・マリア・デラ・サルーテ教会

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Img_53       サンタ・マリア・デラ・サルーテ教会

 

Img_0003_45   ティツィアーノの‘王座の聖マルコと聖人たち’(1510年)

 

Img_0004_22      ティツィアーノの‘イサクの犠牲’(1542~44年)

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ティツィアーノの‘アベルを殺すカイン’(1542~44年)

 

Img_0005_6      ティントレットの‘カナの婚礼’(1561年)

 

団体ツアーでヴェネツィアを観光するときはアカデミア美への入館は行程に
なく、まずサン・マルコ寺院とドゥカーレ宮殿に行きそのあとはヴェネツィ
アガラスのお土産店へ直行するという流れ。そのため、ヴェネツィア派に
関心がある人はドゥカーレ宮殿でティントレットの巨大な絵やヴェロネーゼ
の天井画をみるだけでは思いの丈は満たされない。

だから、自由時間を使ってアカデミア美に向かい感動の袋が目いっぱい膨れ
たところで幸せのドーパミンの大放出とあいなる。そして、‘ベリーニやティ
ツィアーノ、ティントレットもいいじゃない!’とルネサンス絵画の楽しみ方
の幅が広がってくる。そういう方にとって2度目以降のヴェネツィア訪問の際、
名所まわりのオプションとして価値があるのはペギー・グッゲンハイム美か
ら歩いて5分くらいのところにあるサンタ・マリア・デラ・サルーテ教会。

ここでティツィアーノ(1485~1576)が4点みられる。‘玉座の聖
マルコと聖人たち’と聖具室にある3点の天井画‘イサクの犠牲’、‘アベルを殺
すカイン’、‘ダヴィデとゴリアテ’。とくに印象深いのが迫真的な場面が動きの
ある構図で演出されている‘イサクの犠牲’。宙を舞いアブラハムを制止する
天使の姿はティントレット(1519~1594)の絵をみているよう。
そのティントレットは‘カナの婚礼’を描いたものがある。いつものように遠近
法の焦点を左にずらす構成が宴会の大きさをみせてくれる。

この次のヴェネツィアがいつになるかまだ実行計画はないが、どこの教会を
目指すかはおおよそ決めてある。真っ先に向かうのはドゥカーレ宮殿の前方
にみえるサン・ジョルジョ・マジョーレ教会。ここにティントレットの傑作
‘最後の晩餐’がある。これは最後に残っているティントレットの欠かせない
ワンピース。なんとしても目になかに入れたい。ほかに4つくらいヴェネツ
ィア派が楽しめる教会がある。時間があれば貪欲にまわるつもり。

東博の‘美を紡ぐ 日本美術の名品’!

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Img_0001_53      長澤芦雪の‘花鳥遊魚図巻’(18世紀 文化庁)

 

Img_0003_46      円山応挙の‘牡丹孔雀図’(1776年 三の丸尚蔵館)

 

Img_0002_49      与謝蕪村の‘新緑杜鵑図’(重文 18世紀 文化庁)

 

Img_0004_23      宮川香山の‘黄釉銹絵梅樹図大瓶’(重文 1892年 東博)

昨日は午前中、東博へ出かけた。お目当ての展覧会は平成館でやっている
‘東寺展’ではなくて本館の1階と2階を使って行われている‘美を紡ぐ 日本
美術の名品’(5/3~6/2)。じつは当初これは鑑賞の予定に入ってなか
ったが、チラシに載っているある絵が行動を変えさせた。それは長澤芦雪
(1754~1799)の‘花鳥遊魚図巻’。

これまで芦雪の回顧展は2度体験したがこの文化庁が所蔵する図巻は出品さ
れなかったし、手元の芦雪本にも載っていない。だから、気になってしょ
うがなかった。こういうときは1点買いでも足を運ぶというのはMy鑑賞ス
タイル。過去、芦雪の描いた図巻で心を奪われた千葉市美蔵の‘花鳥蟲獣
図巻’は長さ3.7m、これに対し‘花鳥遊魚図巻’は3倍の11.1m。その
ため、夢中になってみてしまう。お得意の雀からはじまり仔犬、啄木鳥、
そして馬鹿デカい鯉、そのあとはたくさんの小さな魚がつづき、最後はナマ
ズ。本当にいいものをみた。

こんほかは多くがすでにみたものなので、スイスイと4つの部屋を回った。
どれも名品だが、つい足がとまったのが円山応挙(1733~1795)の
‘牡丹孔雀図’や与謝蕪村(1716~1783)の‘新緑杜鵑図’。久しぶりに
みたが、昨年白内障を手術して視力がぐんとアップしたので薄みどりや濃い
青がすごく鮮やかにみえる。手術のお陰で展覧会鑑賞が以前にも増して楽し
くなった。

今回嬉しい展示があった。それは宮川香山(1842~1916)の‘黄釉
銹絵梅樹図大瓶’。これは香山の後期の代表作で重文に指定されている。
これまで何度もお目にかかっているのに、この美しい形をした大瓶の絵葉
書がミュージアムショップにない。そのため、鑑賞の余韻を形で味わえなかっ
た。だが、これからは図録があるため作品の印象をリフレインできる。

美術館に乾杯! ラヴェンナ サン・ヴィターレ聖堂

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Img_0002_50      サン・ヴィターレ聖堂

 

Img_0003_47   ガッラ・プラチデイアの霊廟のモザイク装飾‘良き羊飼い’(5世紀)

 

Img_0004_24      クーポラの‘星と金の十字架’(5世紀)

 

Img_0001_54      ‘ユスティ二アヌス帝のモザイク’(548年)

 

Img_55      ‘テオドラ妃と従者たち’(548年)

 

フィレンツェとヴェネツィアを直線で結んだ真ん中あたりに位置するラヴェ
ンナを訪問したのは2010年。お楽しみはなんといっても聖堂や霊廟内の
モザイク装飾、クリムトはここの金のモザイクに感動して黄金装飾にのめり
こんだことがインプットされているので期待で胸が膨らむ。

美術本に載っているサン・ヴィターレ聖堂の有名なビザンチン様式のモザイ
クの前に古典的なモザイクがみられるガッラ・プラチディア霊廟(同じ敷地
内)もみることになっている。この前菜がまた美しい!入口の扉の上に描か
れた‘良き羊飼い’の光輪、衣服、十字架の金が輝いている。さらに目がくら
むのがクーポラに描かれた空にちりばめられた星と金の十字架、四隅の聖ヨ
ハネの鷹や聖ルカの牛にも釘づけになる。

この霊廟が建てられたのはラヴェンナが西ローマ帝国の首都だった430年
頃。このより写実的なモザイクで目を馴らした後メインディッシュのある
サン・ヴィターレ聖堂に移動した。6世紀半ばにビザンチン帝国の総督府が
この町に置かれ、聖堂は548年に完成した。なかに入ると内陣、後陣の
すばらしいモザイク装飾が待ち受けていた。モザイクのいいところは色が
褪色しないこと。だから、横に人物が並び平板な印象を与える‘ユスティ二
アヌス帝’と‘テオドラ妃と従者たち’の鮮やかな金、緑、緋色、白がどーんと
目に跳びこんでくる。これをみたのは一生の思い出。

イスタンブールのアヤ・ソフィアとラヴェンナのモザイクをみたので、次の
ターゲットはシチリア島にあるモンレアーレ大聖堂の‘万能の統治者キリスト、聖母子と聖人たち’(1190年)。まだまだ追っかけはやめられない。

     

美術館に乾杯! シエナ ドゥオーモ

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Img_0003_48      カンポ広場とマンジャの塔

 

Img_56      ドゥオーモの外観

 

Img_0002_51      ギベルティの‘洗礼盤 イエスの洗礼’(15世紀)

 

Img_0001_55      ドナテッロの‘ヘロデ王の宴会’(1427年)

 

Img_0005_8      ベルニーニの‘マグダラのマリア’(1663年)

 

Img_0004_25      ベルニーニの‘聖ヒエロニムス’(1663年)

 

ルネサンス美術に興味がむかったころはテレビの美術番組をビデオに収録し
ひたすら情報を集めた。そのなかに特別興味をそそるイベントがあった。
シエナで毎年7月と8月にカンポ広場で開催される裸馬競馬‘パリオ’、これは
13世紀から続いているそうだ。2006年、その勇壮な競馬が行われる
カンポ広場に足を踏み入れた。

この広場は102mの高さをもつマンジャの塔を中心に扇型に広がっており、
塔に向かって傾斜がついている。あの激しい伝統競馬の場面をイメージしな
がらぐるっとまわってみた。中世の時代、隣町のフィレンツェのライバルと
して覇権を争ったシエナにはもう一つすばらしい建物がある。1229年に
建築がはじまり14世紀の末に完成したドゥオーモ。黒大理石のラインのアク
セントが印象深く壮麗なファサードは言葉を失うほど美しい。

なかに入りびっくりさせられるのは床に施された見事な象嵌装飾。そして、
法王アレッサンドロ7世の命により1661年につくられたキージ礼拝堂に
はベルニーニ(1598~1669)の彫刻‘聖ヒエロニムス’と‘マグダラの
マリア’がある。ほかにも天使像やニッチの中の像を手掛けている。

また、ドゥオーモのアプシスの延長である洗礼堂でも15世紀の彫刻の傑作
にお目にかかれる。1417年につくられた洗礼盤の下部は六角形の水槽に
なっておりその外面を金張りブロンズのパネルで装飾している。ここにギベ
ルティ(1378~1455)の‘イエスの洗礼’、‘洗礼者ヨハネの逮捕’、
ドナテッロ(1386~1466)の‘ヘロデ王の宴会’がある。なんとも見
ごたえのあるパネル。

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