近代日本画の殿堂、東近美で開催されている‘安田靫彦展’(3/23~5/15)をみてきた。東近美はここ数年、画家の代表作をずらっと揃えた見事な回顧展を連続して行ってきた。今年は日本画の魅力を完璧にみせてくれる安田靫彦(1884~1974)。
これまで安田靫彦展は大きなものを2回体験した。東近美が1976年に開催したものは縁がなかったが、1993年の愛知県美と2009年の茨城県美。回顧展は2回遭遇するのが理想だから今回はオマケかもしれない。でも、こういうビッグネームの場合、未見の作品が数点でてくるだけでも大きな喜びとなる。
作品は全部で108点、会期中に展示替えがあるのはじめて安田靫彦展に出会った方は2回出動すると感動はさらに高まるにちがいない。その感動の多くを占めるのが代表作の‘黄瀬川陣’、こういう歴史画の傑作に出会ったおかげで源氏と平家の戦いのイメージが広がっていく。とくに視線が向かうのは美形の義経のみせる厳しい目。それに対し兄の頼朝はどんと構えた大将といったところ。
そして、この絵の見どころは何といっても二人の鎧兜の見事な色彩描写、義経が身に着けている鎧のグラデーションをきかせた紫、頼朝の後ろにおかれた兜の鮮やかな赤が心をとらえてはなさない。この絵を何度見ても感動するのはモーツアルトを聴くたびに心が軽くなるのと似たところがある。
東近美が所蔵する作品では豊臣秀吉を描いた‘伏見の茶亭’もお気に入りの一枚。靫彦は秀吉が茶席を楽しむ様子を2点描いており、永青文庫にあるものも並んでいた。華やかな雰囲気につつまれているのは東近美のほう。
歌舞伎座にある‘神武天皇日向御進発’をみるのは2度目、歴史画のなかでは珍しく音が聞こえてくる作品、大海原を進む船の舳先に波が打ちつける音が戦いの緊張感をいやがおうにも高める感じ。そして、船の後ろのでは兵士たちが腹の底から雄たけびをあげている。
島根県の安来市にある足立美はびっくりするほど質の高い日本画はたくさん所蔵しているが、‘王昭君’はそのひとつ。茨城県美の回顧展には出品されなかったので、お目にかかるのは20年ぶりくらい。今回衣装に施された鳥の模様をじっとながめていた。
‘黄瀬川陣’同様、安田靫彦の代名詞のような作品‘飛鳥の春の額田王’は4/19~5/15の展示、これに合わてもう一回出動するつもり。