ダリの‘茹でた隠元豆のある柔らかな構造:内乱の予感’(1956年)
海外にある有名な美術館を2回訪問するのが美術館めぐりの大きな夢。その願いの叶った美術館がひとつ加わった。3年前にはじめて行ったフィラデルフィア美、二度目となると間隔があくのが普通だが宗達展のお陰でまた訪問する機会がめぐってきた。
今回この美術館にいる時間は1時間、だから、のんびりとみていくわけにはいかない。まず目指したのは一階の展示室で最も人気のある印象派が展示されているところ。164室にありました、ありました、前回どういうわけか姿をみせてくれなかったセザンヌ(1839~1906)の‘大水浴’。
大きな絵であるのと安定した三角形構図のためゆったり気持ちよくみられる。美術本の図版と本物とではよく色のイメージが違うことがよくあるが、この絵もそれがあてはまる。女性たちの肌の色が淡く水彩画をみているよう。セザンヌが晩年に描いた‘大水浴’は3点あり、過去にみたバーンズコレクションとロンドン・ナショナルギャラリーにあるものとくらべてみると、やはりここに飾られているこの大作に一番魅了される。この絵は遠くからもみえ、フィラデルフィア美の顔となっている大傑作、一生の思い出になる。
次に向かったのは近現代美術のコーナー、事前に美術館のHPで部屋ごとの展示作品をチェックしているから動きはスムーズ。前のめりでみたのがダリ(1904~1989)の‘茹でた隠元豆のある柔らかな構造:内乱の予感’という長ったらしい名前のついた絵。
おもしろいのは名前の割には隠元豆の存在感が薄いこと。誰が見ても上の落ち武者のような顔や割りばしが不安定に四角に組み立てられた感じの手足や乳房に視線が向かい、この怪物は一体何者かなどと想像をめぐらしていると、隠元豆のことはすっかり忘れてしまう。この絵が目のなかに入ったので次のターゲットはベルギー王立美で2回ともみれなかった‘聖アントニウスの誘惑’。夢が実現するのはいつだろうか?
デュシャン(1887~1968)は前回2つある展示室が改築中でまったく縁がなかった。お目当ては‘彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも(大ガラス)’と木の扉に開けられた覗き穴からなかをみる‘与えられたとせよ:落ちる水、照明用ガス’、フィラデルフィア美へ出かけてデュシャンがみれないなんてしゃれにもならないから、画集に載っている作品の多くをリカバリーできたことを心から喜んでいる。
シャガール(1887~1985)の‘3時半(詩人)’も収穫のひとつ。ここにはシャガールが4点くらいあるが、自画像は日本に一度やってきた。もっともみたかった‘3時半は’緑で彩られた逆さになった顔と猫、詩人の胴体の青、そして床の赤の組み合わせがとても印象深い。