冨田渓仙(1879~1936)が描いた桜の絵で心に強く残っているのは‘祇園夜桜’(1921年)、‘東山夜桜図’(1932年)、そして‘昭和の日本画100選’に選ばれた‘御室の桜’。
御室は京都の仁和寺の別称、ここにある八重桜は樹高が高くなく地をはうように枝をのばすのが特徴、この桜を渓仙は祇園夜桜とは画風を変え、写実的に美しく描き上げた。とくに印象深いのが右から斜め上に長くつきでた枝の描写。6年前にあった回顧展(茨城県近美)でようやく対面が叶い息を呑んでみていた。
鯉の名手としてすぐ頭に浮かぶのは前田青邨、福田平八郎、川端龍子の三人、また数は少ないが速水御舟(1894~1935)にもいい鯉の絵がある。‘春池温’が忘れられないのは鯉がこちらのほうに向かってくるのと鯉の動きによって水面にS字の波文ができているところ。そして赤い桃の花と鯉の組み合わせもピッタリ。
安井曽太郎(1888~1955)の風景画で心を打つのは‘外房風景’と‘奥入瀬の渓流’。‘奥入瀬’は東近美でよくお目にかかり大変魅了されていたが、実際に東北旅行で奥入瀬を体験したあとは実景のすばらしさをそのまま伝えてくれるこの絵にいっそう惹かれるようになった。