‘佐竹本三十六歌仙絵 柿本人麻呂’(重文 13世紀 出光美)
岩佐又兵衛の‘在原業平図’(17世紀 出光美)
尾形光琳の‘不二山図’(18世紀 五島美)
和歌への関心が特別強いわけではないが、小さい頃家族で‘百人一首’のかるた
遊びを定期的に行っていたので有名なものは今でもよく覚えている。このお
陰で‘佐竹本三十六歌仙絵’の存在を知り、全部ではないにしろ出光美や東博で
何点か披露されるという情報をつかむと見逃さず足を運んできた。そして、
2019年、京博で開催された決定版‘流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と
王朝の美’に巡り合った。女流歌仙はすでにとりあげたので今回は男性の番。
雪舟が画聖と呼ばれように、和歌の世界では柿本人麻呂(660~724)
と山辺赤人(?~736)が歌聖と呼ばれている。二人は佐竹本では向かい
合うような姿で描かれているが、似絵に多く出てくるのは人麻呂。でも、百人
一首で好きなのは赤人の歌。‘田子の浦に うち出てみれば 白妙の 富士の
高嶺に 雪は降りつつ’。‘田子の浦に’と詠まれると、すぐ手をだしてとった。
9~10世紀にかけて成立した歌物語‘伊勢物語’に主人公として登場する在原
業平(825~880)は歌も上手いが稀代のプレイボーイなのでさまざまな
女性との恋物語が描かれる。岩佐又兵衛(1578~1650)の肖像画は
宗達の絵にでてくる男とはだいぶ描き方がちがい、又兵衛流の特徴である顔の
下がまるく膨れる二重あごを連想する女性画と変わらない。
宗達から尾形光琳(1658~1716)へと継承された伊勢物語絵の図柄をベースにして描かれた深江芦舟(1699~1757)の‘蔦の細道図屏風’は東博の平常展にときどきでてくる。‘東下りのルート’の一場面で何度もみているうちにこの絵にとても魅了された。ここは当時は大変な難所であった駿河の宇津の山。山地をゆく業平の一行は秀逸の構図で配置されている。光琳の‘不二山図’の動きのある描写で霊峰富士に感嘆している感じ。