岸田劉生の‘わだつみのいろこの宮’(重文 1907年 アーティゾン美)
昨年の3月、神々のふるさと、宮崎を訪れたのがきっかけとなり、古事記を
じっくり読んだりこれを題材にした日本画とあらためて向き合うことが多く
なり、旅の効用を噛みしめている。青島や高千穂に足を踏み入れる前は、
日本神話の絵というと岸田劉生(1882~1911)の‘わだつみのいろこ
の宮’と‘大穴牟知命’しかすぐに思い浮かばなかったが、今では図録を丁寧に
みていると、〇〇も神話を歴史画として描いていたのか!と惹き込まれることがしばしばある。
河鍋暁斎(1831~1889)の‘日本神話 島々の誕生’は日本に滞在していた英国人の依頼により描かれた‘日本神話シリーズ’(10図あったが、現在発見されているのは5図)の一枚で、国産みにかかわった二柱の神、伊邪那岐(いざなぎ)と伊邪那美(いざなみ)が天浮橋に立ち、天の沼矛を下ろして海水をかき混ぜおのごろ島が出現させる場面が描かれている。冨田渓仙(1879~1936)も同じ場面を漫画チックな画風で表現している。
青島神社で購入したわかり易い小冊子‘日向神話’のおかげで海幸彦・山幸彦の兄弟の物語がよく頭に入った。そして、聖書のカインとアベルの話が重なってきた。今村紫紅(1880~1916)は正方形の画面に弟の山幸彦(下で弓矢を構えている)だけを描いている。では、上の釣竿と魚をもっているのは誰?この女性は山幸彦が娶ることになる豊玉姫(海の世界にいる)。
その豊玉姫は岸田劉生の有名な絵では木の枝に腰掛ける山幸彦の下で横をむく姿で描かれている。いつみても山幸彦が女性に見えてしょうがない。この出会いにより二人は結婚して、その後山幸彦は失くした兄の釣り針を海の神様の支援で探し出すことができた。そして地上の世界へ帰っていく。暁斎は‘日本神話シリーズ’とは別に素戔嗚尊(すさのおのみこと)が八岐大蛇(やまたのおろち)をやっつけるところを‘素戔嗚尊の九頭龍退治’で絵画化している。太刀を振りかざしスーパーパワーをもつ素戔嗚尊のダイナミックな動きに吸い込まれる。